取材記事

点字サインのパイオニア・サン工芸だからできる技術力を発揮した遊び心

京の点字サイン屋さん「六点堂」のネットショップで購入できる点字付きクリップと点字付きクリアーホルダー

街中で視覚障害者を助けてくれる点字案内板や手すりの標示板。施設の全体像やトイレ内の配置がイメージできるほか、今いる場所が階段の何階部分なのかがわかったり、電車内では乗車位置点字標示板で今いる位置が確認できます。さらに駅のホームドアやホーム柵は移動時の安心安全を与えてくれます。

これまで数々の場所に、こうした案内板をはじめとする視覚障害者誘導用の設備・装置を設置してきた実績のある株式会社サン工芸(以下、サン工芸とする)。この分野におけるパイオニアであり、確かな技術力を誇ります。

しかし一般消費者への直接販売を行っていなかったため、恩恵を受けている視覚障害者も会社名に馴染みがないかもしれません。また点字を読めない視覚障害者は、より接点が少ないでしょう。

今回同社から発売された新商品はその距離感を縮めるきっかけになりそうです。京都本社の柴田和昌さんと須田芳規さんに新事業の裏話や今後の展開などをお伺いしました。

全社に息づく視覚障害者ファーストの精神

新商品の話題の前に、サン工芸の点字製品に対する考えを少しご紹介します。

同社が心がけているのは、視覚障害者が読みやすい・わかりやすい点字製品を作ること。製造は1枚のアルミをプレスして点字の凸部分を叩き出す工法です。一定の圧力で点字の高さをキープし、緩やかなカーブで凸部分が作られるため、点字使用者からも触ったときに滑らかで指触りが優しいと評判です。

その裏にあるのは謙虚なものづくりの姿勢。視覚障害者の展示会に出展して当事者に案内板を触ってもらう。支援組織に出向いていって製品の監修をしてもらう。こうして集めた意見を社内で検討し改良を重ねていく。これは社長の掲げる「今の状態がベストではない、常に探求し続けより良いものを作ろう」というモットーが社員に浸透している証と言えるでしょう。

サン工芸で働くにはまず点字の勉強から入ります。社員の方は皆さん晴眼者ですが、加工する際に点字の並びを頭に入れて行うとか、パソコンでデータ作成するにも点字を理解しておく必要があるとか。仕事を進める上で重要なスキルです。

新たな戦略の拠点「六点堂」

サン工芸がいま新しく取り組んでいるのがネットショップです。その名も京の点字サイン屋さん「六点堂」。これまでの製品ラインナップの中からネット販売に適したものを検討し、手すり標示板を12枚1組のセットで販売することにしました。手すり標示板とは、大型施設などでよく見られる、階段の手すり部分に設置されている点字サインです。webで検索してすぐ購入できるので、建物の所有者の方がちょっと手直ししたいなと思ったときに便利です。

そしてネットショップ開設にあたって新商品も考案されました。最初に作ったのが点字付きクリップ。ぜんぶで6色あり、それぞれのクリップの色が点字で書かれています。販売は3個で1セット。ピンク・キイロ・オレンジの暖色系、もしくはアオ・ムラサキ・ミドリの寒色系です。書類を挟んだときにどれがどの書類なのかわからなくなる、そんな不便さを解消してくれます。

自分で書類の判別をするのに役立つだけでなく、晴眼者と一緒に作業をするとき、色でやり取りできるのも利点です。しかも点字を習ったことがない中途視覚障害者や色覚異常の方にも優しい設計。なんとプレート部分に切り込みを入れ、6色全て違う形のプレートにして点字が読めない人でも使える工夫をしてあります。

同じくクリアーホルダーも6色で発売になりました。開発段階で悩んだのはどこに点字をつけるのか、ということ。全盲の方の意見を参考にいろいろ考えた末、左上部に決定しました。

このように新商品開発にも視覚障害者の声が反映されています。また、ある当事者の「人が集まる場所で靴を脱いだとき、後から自分の靴がどれだかわからなくなる。」という困りごともヒントになったようです。

求められる柔軟な発想

サン工芸が製造するのは福祉に重点を置いた製品。いっぽう六点堂は遊び心のある楽しい商品にも幅を広げて作っていく予定です。晴眼者が点字の付いてる商品って面白いなぁと興味を持ち、もっと点字に触れあってもらえたら。そんな願いをこめて、実用的なものからアクセサリーのようなものまで、いま社内ではどういった商品にしようかと、毎週喧々諤々白熱の会議が行われています。

ただ柴田さんによると、これまで点字案内板やピクトグラムなど視覚障害者の安心安全な誘導を目的とした製品に注力してきたため、新しい発想で企画を考えるのは難しいとのこと。しかも点字を知らない人にも刺さるような商品となるとなおさらです。みんな凝り固まった頭を柔らかくするのに苦労しています、と苦笑いされていました。

最近では街中で何かを目にすると「あれに点字を付けてみたらどうかな」とすぐ仕事に結びつけてしまうそうで。電化製品に点字が付いてるのを見てなるほどと思い、こういうのに点字が付いてるならこっちにも付けられるかもしれない、などと頭の中が点字をあしらった新商品のことでいっぱいになっている柴田さん。点字文化を残していきたいんです、と語ってくれたのも印象的でした。

大きなマーケットへと広げていこう

六点堂の今後の商品展開にはわくわくします。しかし1点だけ気になることが。それは値段。発売済みの商品はやや高額な印象です。もちろん高品質であるのは言うまでもありませんし、視覚障害者用の便利グッズは、手間のわりに数が出ないためやむを得ないことなのでしょう。わかった上で失礼ながらお尋ねしてみました。

柴田さんも徹底してコストダウンを図り価格を抑えようとしたんですが、と苦渋の決断ともとれる表情。できるところまで企業努力をした結果です。

ならば、やはり点字デザインが付加価値として認められ、晴眼者にも広く購入される商品になるのが理想です。それにより全体的なコストダウンも期待できるでしょうから。これはもう視覚障害者全体で六点堂のこれからの商品を盛り上げるしかありません。晴眼者に届くぐらい目いっぱいの声援で。