取材記事

「obon table」は視覚障害者の暮らしのリサーチから生まれたやさしいテーブル

見えない人が机の上で何かを行うとき。机のデザイン上、モノの定位置が明確でその領域が触ってわかるようになっていたら…すごく使いやすいと思いませんか?

今年の4月に開設した障害福祉サービス事業所の領家グリーンゲイプルズには、まさにそんな理想を形にしたテーブルが導入されました。その名も「obon table」。食事のときお盆に食器を乗せておくことで手を動かす範囲を限定でき探り当てやすくなる。視覚障害者のそうした工夫からヒントを得て平井百香さんがデザインを手掛けました。

はたしてどんなテーブルなのか。平井さん自身の活動とともにご紹介してまいりましょう。

祖父と過ごした時間が現在の研究へ

東北大学工学部建築学科から同大学院に進んだ平井さん。途中民間企業も経験し現在は東北大学の研究室で助手として働いています。視覚障害者は空間をどんなふうに認識するのか。また住まいにおける工夫の仕方、たとえば家具の配置やモノの置き方をどうしているのか。平井さんが研究し続けているテーマです。

背景にあるのは今は亡き祖父の存在。網膜色素変性症だった祖父は40代から急速に病状が悪化し、平井さんが生まれたときには既に見えていない状態でした。便利な人がより便利にというよりも、生活に困りごとを抱えた人が暮らしやすくなるように。小学生で読んだ乙武洋匡氏の「五体不満足」の記憶と相まって、自然と身についた考えでした。

その思いは修士課程卒業のための修士設計でより具現化されます。「目が見えない祖父のための住宅を設計してみよう」。平井さんはダイアログ・イン・ザ・ダークなどに携わりながらリサーチを進めました。そこで出会った視覚障害者の人たちからヒアリングをしたり図面を触ってもらったり、ときには自宅を見せてもらったり。その結果、平井さんの設計した作品はトウキョウ建築コレクションでグランプリに輝いたのです。

実現に向けて3人の力が結集

obon table誕生のきっかけは、上述した領家グリーンゲイプルズの立ち上げでした。同事業所を運営するNPO法人みのりの代表・加藤木貢児さんが平井さんの研究を知って、事業所の空間づくりについて相談を持ちかけたのです。

NPO法人みのりは視覚障害とそのほかの障害を併せ持つ盲重複障害者のために活動する団体です。事業所に通う利用者さんの作業はいろいろ。点字名刺やポチ袋づくり、コーヒー豆の焙煎に、農業も行っています。必要な備品はなんだろうというところから、まずはテーブル、となりました。そこから作業用テーブルのデザインを平井さんがリサーチし提案することに決まり、プロジェクトへと繋がったのです。

プロジェクト名は「Table for the Blind by the Blind」、略してBBプロジェクト。「視覚障害者による」「視覚障害者のための」テーブル制作がコンセプトです。

平井さんが利用者さんの特性に応じた手作業などを聞いて進めていった基本的デザインを、実際の形にしたのはもう1人のプロジェクトメンバー・細田真之介さん。具体的な工法やどんな木を使ってどういう風に製品として作るのか。そういったプロダクトデザインを担当されました。

3者の共同によってobon tableは実現したのです。

これがobon table!

さて出来上がったobon tableとはどんなものなのでしょう。

寸法は900㎜×600㎜。厚さ20㎜の天板の真ん中に大きな円形の穴、そしてそれよりも小さめでサイズ感バラバラな円形の穴が右に4つ左に3つ、いずれも直線上ではなく不規則に並んで開いています。穴の深さは10㎜。それぞれの穴の大きさはどういう作業でどんな道具を使うかを想定して決められました。

カップ用の穴なら直径100㎜あれば大抵は置けるとか、ハサミや糊を置くと仮定するとこれぐらいの穴ならほとんど入るだろう、とか。そういうモノの大きさから決まってくるパターンと、もう1つ動作の大きさから決まってくるパターンがありました。代表的なのが真ん中の一番大きな穴。テーブルの前に座って肩幅に広げた手を伸ばしたとき、綺麗に円の中に納まる大きさにしたら直径400㎜になりました。大柄な人、小柄な人で多少使いやすさは違ってきますが、工業規格などで使われている人間のサイズを基準にしており、大抵の人は自然な感じで手が入るようにできています。

ほかにも手を一番遠くに伸ばしたときの距離から配置を調整したり、穴を触った感じがなるべく滑らかになるようエッジ部分を斜めにカットしたり、使う人のことを考え抜いた製品です。

先日発表された「ウッドデザイン賞2020」も受賞しています。 

obon table、どうやって手に入れる?

ではobon tableを自宅で使いたいという方はどうすればよいのでしょうか。まずはNPO法人みのりへお問い合わせください。さらに今なら気軽にGETできるチャンスもあります。

11月上旬~中旬に開始する予定のクラウドファンディングでリターンの品に家庭用obon tableを準備しているのです。見えない人がリサーチ・デザイン・生産のすべてに関わることを目指しているBBプロジェクト。集まった資金は、事業所で利用者さんがobon tableをつくれるようにするための設備投資に活用します。

気になる返礼品のテーブルは、家庭用ということで事業所向けのものよりも1回り小さいサイズで検討中。今ある机に乗せるだけ、脚の付いてない天板単体になりそうです。用途も食事用とパソコン作業用の2種類をデザイン。もともと天板は10㎜の板を2枚貼り合わせて作っているため、リバーシブルにする構想もあるのだとか。お得ですねー。

obon tableが欲しい方、BBプロジェクトの趣旨に賛同された方、ぜひご支援ください。そしてこれからも視覚障害者の住まいをリサーチし、そこで得たものを次の製品のデザインへと繋げる、その循環をテーマに走り続ける平井さんの活躍にもご期待ください。

クラウドファンディングの詳細はNPO法人みのりさんから発信されると思われます。HPまたはページに埋め込まれたSNSの情報をご確認ください。

リサーチ&基本デザイン:平井百香(東北大学大学院)
プロダクトデザイン:細田真之介(SOF)
プロデュース:加藤木貢児(NPO法人みのり)