取材記事

あなたは誰かの役に立つ! Dr.福場に学ぶ、視覚障害者が心を健康に保つ秘訣 ~後編~

見えない見えにくい人が前を向いて進むため、そして新型コロナウイルスの影響で心まで元気を失くしてしまわないために心がけるべきことはなにか?視覚障害当事者であり現役の精神科医でもある福場将太さんにお聞きした、視覚障害者の心の健康に関するインタビュー後編です。

専門医への相談はまず情報入手から

前回は「なつひこせやま」が元気を奪う原因になるという福場医師のお話をご紹介しました。(参考:2020年5月7日掲載の前編記事)

中でも印象に残ったのが悩みをひとりで抱えない、孤独にならないことの大切さ。悩みって人に話すだけでそんなに違うものなんでしょうか。

「これはかなり違うと思います。我々は患者さんの心がこっちに流れ込んでくるという表現をすることがあるんですが、心のコップの水がいっぱいになってるときに、人に話すことでこっちに流れ込んできて心が軽くなるイメージですかね。人に話してるうちに違う見方ができたり違うアイデアが浮かぶこともありますし。一回話して解決にはならなくても話すのはめちゃくちゃ大事だと思います。今は人と会ってはいけないってなってますよね。実はこれがコロナの怖いところなんです。ただ幸いいろんな機器がありますから。電話とかオンラインで人と話すのを怠らないようにしてください。」

誰かに話を聞いてもらうのがいかに大事か、よくわかりました。とは言うものの、身近な家族や友人にはかえって話しづらい、という人もいるはず。それで自分の殻に閉じこもってしまったり。その場合、精神科に相談に行くのはかまわないのでしょうか?

「そこなんですよね。本当は違うんですが、日本では病気を恥と考える文化があって、隠しちゃうところがまだまだあるんですよ。なので目が見えなくなったことで引き籠ってしまった方が水面下にたくさんいると思うんです。そういう人たちが頑張って眼科に行ったとしても、眼科は非常に忙しい科なのでゆっくり心を受け止めてあげる時間的余裕がないらしくて。かといって精神科、心療内科が話を聞いてくれるかと言えば、精神科医によって差が大きいんです。僕なんかはそれも心の医療の役目だと思うんですが、目が見えなくなって落ち込んでるときに一般の精神科に行ったとしても果たしてどこまで対応してくれるか。もちろん鬱状態になってれば治療はしてくれますが、その前段階でゆっくり話を聞くのが本当は大事ですよね。ただ現実は、その先生次第、病院次第になってますね。」

切ない話になってしまいました。とは言え、救いがないわけではありません。福場医師が話を続けてくれました。

「でも対応してくれる先生は確実にいます。だからそういう情報がとても大事になります。また、引き籠ってる人には我々みたいに障害を負って医療に携わってる人間の方が向いてたりもします。僕もメンバーになっている視覚障害を持つ医療従事者の会というのがあって、目が見えない先生も全国にたくさんいるんです。そういう人を訪ねてみるのもひとつだと思います。

福場医師によると、視覚障害者に限らず引き籠ってる人を表に出られるようにするのは結構大変なんだとか。

「心を揺さぶる、葛藤を起こさせてあげるのが重要なんですが、そのためにも情報が必要です。こんな人がいるとか、見えなくても医師や看護師もいるとか。知れば心が揺さぶられるかもしれませんよね。」

他の人が経験していないから役に立てる

引き籠りがちな視覚障害者の中には、重複障害や目以外の病気を抱えていて頑張る頑張らない以前に生きることに精一杯な人もいます。そのことで自己嫌悪に陥ってたとしたら、どのような言葉をかけるのがよいでしょうか?

「言葉だけでそういう人の心を癒すのは難しいですし、すごく迷うんですが…。まずは肯定的に接してあげること。それとその方に感謝の言葉を伝えてあげること。人は承認されたり感謝されたりして少し元気になれるので、今日話をしてくれてありがとうとか、本当に小さなことでも感謝を伝えてあげるのがすごく大切でしょうね。あとやっぱり、なんらかの形で役に立たせてあげるっていうのが大事だと思います。」

働くのが難しい方には、仕事じゃなくても役に立てるって本人に気付かせてあげるということでしょうか。

「そうです。その方が書いたちょっとした文章や言葉が、誰かにとって参考になったとか、勇気を与えたとか。本人がそう思うのは時間がかかるんですが、難病とか障害を持ってる方は、その人にしかない苦労をしてきています。たしかに健常の人と同じことはできないかもしれないけれど、その人はいろんな苦難を抱えて今日まで生きていているのだから、実はすごいことを成し遂げているんです。あなたは他の人ができないすごいことをやっているんだということを教えてあげてください。いろんな知恵とか経験を持っているんだ。それが役に立つんだ、ということですよね。その点では当事者の集まりもやっぱり大事で、さっき(前編のところで)言ったカミングアウトの研究を一緒にやってみるとか、その人がなんかの形で役に立つように持って行ってあげることが心を救うと思います。」

人間は役に立つと思えれば元気になれるんですね。

「人の役に立つことが一番の癒しだし一番のエネルギーだと僕は思っています。」

最後に、福場医師が仕事をする上で大切にしていることを尋ねてみました。

「大切にしていること。う~ん。やっぱり元気に働き続けることでしょうか。90点で1ヶ月で倒れるよりも60点でもいいからずっと働くほうが良いと思っています。そういう意味では、好きなことをするっていうのを絶対忘れないようにしています。医者はこうあらねばならない、と縛られることがあるけれど、別に医者でも弱い部分もあるし、休みの日は好きなことして遊んでいてもいいと思うんですよ。だから元気に出勤するために好きなことはやめないというのが僕は大事にしていることです。自分のホームページで音楽を載せてるのもそのひとつなんです。(笑)」

そう!福場医師の個人HPには、自作の歌がいくつもあがっています。なかなかの美声なので、ぜひ聴いてみてください。そしてみなさんも、好きなことをして、小さなことでも誰かの役に立って、もちろん役に立てることが無いなんて思わないで、元気に過ごしましょう。