取材記事

ブラインドセーリングならではの爽快感! 視覚障害者が自らの手でヨットを操り風を感じる

ヨットの上のいたじまさんとパートナーの盲導犬

(取材・文:菅野春菜)

視覚障害者も、晴眼者と同じように様々なスポーツを楽しんでいます。野球や卓球、バレーボール、テニス、サッカーなどは音が鳴るボールを使用したり、視覚障害者でもプレイできるようにルールを変更したりなどの工夫がされており、パラリンピックでも陸上や水泳、柔道、ゴールボールなど多くの競技で活躍しています。

筆者自身、盲学校在学中には様々なブラインドスポーツに触れる機会がありましたが、運動音痴な筆者は残念ながらどれも上達しないまま卒業を迎えてしまいました(笑)

そんな筆者がここ数年気になっているスポーツがあるんです。そのスポーツとは、ブラインドセーリングです。

ブラインドセーリングってどんなスポーツ?

ブラインドセーリングは、ヨットの舵と大きい帆を操作する視覚障害者(ブラインド)と、小さい帆と状況説明や指示を担当する晴眼者(サイテッド)が協力してヨットを操作するマリンスポーツです。海上や湖上に設置されたコースをいかに早くゴールするかを競います。

ヨットにも様々な大きさや形があり、大きく分けるとディンギーとクルーザーという種類があります。ディンギーはキャビン(船室)のない小型のヨットで、1人または2人で操作します。クルーザーはキャビンがある大型のヨットです。ブラインドセーリングではこのクルーザータイプのヨットが使用されています。

ブラインドセーリング世界選手権では、視覚障害者2人、晴眼者2人の4人乗りが基本となりますが、パラリンピックでは視覚障害者と晴眼者でチームを組むのではなく、視覚障害以外の障害者と視覚障害者がチームを組んで競います。

それぞれの役割

・メインシートトリマー(ブラインド)
大きい方の帆を操作します。

・ヘルムスパーソン(ブラインド)
サイテッドの指示を聞きながら風向きに合わせて舵を取ります。

・スキッパー(サイテッド)
周囲の状況や風向きを見ながらブラインドに伝えます。

・ジブシートトリマー(サイテッド)
小さい方の帆を操作したりブラインドのサポートをします。

クラス
視力により3つのクラスに分かれて競技を行います。
B1 全盲
B2 光覚手動
B3 弱視

セーリングをもっと気軽に

セーリングについて調べていると、度々見かける「セイラビリティ活動」というワード。この「セイラビリティ活動」とはどのようなものなのでしょうか?

セイラビリティ活動 とは?1980年代にイギリスの王立ヨット協会で、障害がある方でもセーリングを楽しんでもらう事を目的として始められた活動です。後にその活動はオーストラリアから世界へと広まったとされています。

セイラビリティでは、ユニバーサルデザインのヨット「アクセスディンギー」を使用します。「アクセスディンギー」は、2013年に「ハンザ」と改名され、ハンザクラスとして日本でも普及しており、障害がある方でも安心して楽しむ事ができるような環境が整えられています。

ハンザの特長

・重いセンターボードを備えているので、大きく傾いてもすぐに水平な状態に戻る。
・転落防止のため、座席を深く設計されている。
・オプションパーツが豊富で様々な病気や障害がある方でも1人で操作できるように自由にカスタムできる。
・視覚障害者が進行方向を確認できるようにコースには音響機器が設置されている。

実際に体験しに行きたいところではありますが、こんなご時世ですし、残念ながら筆者が住んでいる地域には体験できるような場所がないため、今回は筆者のFacebookのお友達でセーリングをされている板嶌(いたじま)さんにお話を伺いました。

板嶌さんは網膜色素変性症による視覚障害があり、現在は盲導犬と共に生活しています。板嶌さんがセーリングを始めたきっかけは、セーリングをしている知人からのお誘いでした。

クルーザーに乗せてもらえるとの事で、ドキドキしながら現地に向かったところ、想像していたより小さくてボートのようなサイズのヨットに戸惑いを隠せなかったそう。クルーザーと聞くと、優雅にパーティーを楽しむような大きめの船を想像してしまいますもんね(笑)

そんな不安も最初のうちだけで、実際に体験してみるととても開放的で奥の深いスポーツだと感じるようになり、今では1人でハンザを操作してレースに出場するほどの腕前との事。

様々なブラインドスポーツが普及しているとはいえ、セーリングのように視覚障害者が1人で乗り物に乗ってレースをするという競技はほとんどありません。また、ハンザクラスでは障害の有無や年齢、性別に関わらず一緒にレースに出場して楽しむ事ができるスポーツだという事が1番の魅力だと仰っていました。

たしかに私たち視覚障害者は車やバイクなどを運転する事ができないため、1人で乗り物を操縦するというのはとても貴重な経験ですよね。そして、健常者と障害者の垣根を越えて共にスポーツを楽しむ事でコミュニケーションを図る良いきっかけになると思います。お話を聞けば聞くほど魅力的なスポーツで、ますます興味を惹かれてしまいました。

全国各地で体験できるそうなので、詳細につきましては下記のサイトからご確認ください。

最後までご覧いただきまして、ありがとうございます。