取材記事

ぜひ劇場へ。誰もが楽しめるバリアフリー演劇結社ばっかりばっかり

悪い人じゃないんだけど…アナザーより、声をかけてくれないからじゃないかな

最近は自宅で楽しめる娯楽が増えてきました。視覚障害者にとってはありがたいことです。でも劇場に芝居を観に行くと、独特のワクワク感がありますよね。会場の雰囲気だったりお客さんが集まってくる感じだったり。そして幕が上がると一気に舞台の世界に引き込まれてしまいます。

障害が理由で一度も劇場に芝居を観に行ったことがない人。あるいは以前は行っていたけれど目が見えなくなって行くのをやめた人。どんな人にもわかりやすく理解しやすい「バリアフリー演劇結社ばっかりばっかり」の芝居をぜひ生で観てみませんか?

観る側も演じる側もバリアフリー

劇団主宰の鈴木大輔さんと盲目の女優・美月めぐみさん、ともに話が楽しくてさすがエンターテインメントのプロという印象です。このおふたりが中心となって演劇や朗読などの公演をされているのが「バリアフリー演劇結社ばっかりばっかり」。ちなみにご夫婦でいらっしゃいます。

キャッチフレーズの「観る側も演じる側もバリアフリー」のとおり、ばっかりばっかりの芝居にはバリアフリーが満載です。

演じる側にはもちろん全盲の美月さんがいて、芝居では常に視覚障害者の役を演じています。なるべく一人では動き回らない役が多いのですが、それは自分都合というよりもお客さんが心配して芝居に集中できないといけない、というお客さん視点での考えから。それでも動く必要がある芝居では、舞台を駅のホームという設定にして点字ブロックを敷いたり、盲導犬役の役者さんを登場させてハーネスで繋がったりと脚本でうまく工夫されてます。

ばっかりばっかり公演「だからこそ愛-最後の1歩」

そして観る側への基本的なこととして、

  • 視覚障害者への配慮
    ・演劇のセオリーを無視して足音を立ててバタバタ歩く
    ・あれそれ、と言った指示語を使わずペットボトル取って、など具体的な言葉を使う
    ・顔で表現する演技にも必ず声を出して感情を伝える

  • 聴覚障害者のへの配慮
    ・舞台奥のスクリーンにプロジェクターで字幕を投影する
    ・首を傾げるなど感情を動作で表す

  • 車いす利用者への配慮
    ・建物の1階んいある劇場や、スロープやエレベータが設置されている劇場を選ぶ

そしてもっとも特徴的なのが言葉に対するこだわり。一番の基本はゆっくり喋ること。統合失調症の方から喋るのが早いと指摘を受けたのが始まりですが、字幕を読む聴覚障害の方への配慮にもなっています。
「わたしは初めてお芝居ぜんぶを楽しむことができたよ」これは軽度の知的障害の方からいただいた嬉しい声です。

視覚障害者を楽しませることを知り尽くした劇団

鈴木さんは長年音声ガイドの仕事もされており、美月さんは視覚障害の当事者。このおふたりにかかれば、視覚障害者を楽しませるアイデアは無限に湧いてきます。

脚本の段階から視覚障害者にわかやすく作るのはもちろんですが、ほんの一例だけでも次のような工夫が。
出演者は一斉に登場させずひとりづつ順番に出させる。芝居の中で自己紹介をガッツリやらせてみる。役者さんそれぞれに違う音の出るものをつけて、出てきただけで誰だかわかるようにするなど。なおこの音が出るものというのは、赤ちゃんをあやすガラガラとかよさこい祭りの鳴子といった、想像するだけでそんなのをつけて音を鳴らしながら出来てら面白いだろうな、というものばかり。ほかにも、音声ガイドが癖になって日頃からつい音声ガイドをしてしまう、視覚障害者のお兄さん役を物語に登場させたことも。

ともすると、ユニバーサルデザインの製品やサービスを作るのは地味で大変な作業というイメージがあるかもしれません。しかしおふたりからはとにかく楽しんで作り上げているのが伝わってきます。

ばっかりばっかり公演「海坊主より、美杉とママ」DSC_2432

ほかにも聴覚障害者のためのアイデアもたくさんお持ちでしたが、それらは機会があればぜひご本人に会って聞いてみてください。

他の追随を大いに許す、バリアフリー劇団ならではの取組み

約10年の積み重ねによって、ばっかりばっかりには誰もが生で芝居を楽しめるノウハウが蓄積されてきました。とても大きな強みですが、これを自分たちだけのものにするつもりはまったくありません。鈴木さんは、他の追随を許さなくない、ぜひほかの劇団にも真似して欲しいと語ります。

その言葉を具現化したもののひとつが「観劇サポートガイドブック」。少しでも多くの障害者に芝居を観る楽しみを知って欲しい、との思いから、聞こえない人が中心となっている別団体に協力する形で作られました。観劇サポートガイドブックは、劇団や劇場の方に向けたもので、会場までの道中や着いてから座席に座るまでを不安だと感じている障害者をサポートするための方法が書かれています。冊子として関係者に配り、今はダウンロードもできるようにネット上にもアップされています。

どうすれば障害のある方に安心して劇場に来てもらえるか。常に考え、行動している鈴木さん。願いは、お客さんが観終わったときに、なぜだかわからないけどわかりやすかった、と思ってくれること。作り手の苦労を強調しないところがファンから愛され続けている秘訣なのかもしれません。

秋の公演をぜひ劇場で

ばっかりばっかりの魅力を知ってしまうと、早く生で観たいという思いに駆られませんか?

実は2019年の秋公演が決定しています。
概要のみ記載しておきますので、チケットのお問合せは直接バリアフリー演劇結社ばっかりばっかりのHPをご覧ください。(お早めに)

『キョウヨウコウザ Anniversary』

公演日:2019年11月3日(日曜日)から5日(火曜日)
場所:龍福寺会館(東京都板橋区)

バリアフリー演劇結社ばっかりばっかりHP

詳細はネタバレするといけませんのであまり書けませんが。濃いキャラクターたちの面白さに注目です。

最後に美月さんから「生の舞台は違うよ、というのをぜひ伝えて行きたいし、理解してもらえる活動と魅力あるコンテンツをこれからも作り続けていきたいと思っています」とメッセージをいただきました。

人生に娯楽は欠かせません。いっとき日常を忘れて芝居の世界にハマってみてはいかがでしょうか。

悪い人じゃないんだけど…アナザーより、ラストの4人並んで「ありがとうございました」の挨拶