レクリエーション

-みないろ会- 街の小さな映画館とそこに集まるバリアフリーな仲間たち

九州は佐賀県佐賀市にある小さな映画館、シアターシエマ。経営は決して楽ではありませんが、街の映画愛好家にとって大切な場所です。

近々上映が予定されている篠原涼子さん主演の「今日も嫌がらせ弁当」。視覚や聴覚に障害のある方も楽しめるように音声ガイドと字幕が付きます。それ自体は最近だと特に珍しくはないかもしれません。でも一般的なバリアフリー映画の製作過程とちょっと違っていることがあるのです。それはこの上映作品の音声ガイドと字幕が、街の人たちの手作りだということ。

製作したのは地元「みないろ会」のみなさん。みんなでいろんな映画を見たいから、バリアフリー映画をつくる会、です。映画好きな人たちと、視覚や聴覚に障害のある人たち、そして視覚障害者支援に携わる人たちで構成されています。

自分たちの手で真のバリアフリー映画を!

みないろ会の誕生は、2018年4月。誰もが本当に楽しめるバリアフリー映画の上映を目指して結成されました。発起人のおひとり、佐賀県視覚障害者団体連合会の会長である森きみ子さんは先天性全盲の方。穏やかな語り口とは裏腹に視覚障害者としての矜持が感じられます。

前佐賀県知事の古川県政時代に、知事の意向もあって県主導のバリアフリー映画祭が開催されるようになりました。ところが対応した県庁の方々も不慣れだったのでしょう。視覚障害者用のパンフレットがほんの僅かな部数しか作られていないなど、障害当事者にとっては、バリアフリーという謳い文句に疑問を感じる点がありました。

やがて県主導でのバリアフリー映画祭は縮小されていき、シアターシエマにその役割が移っていきます。支配人の重松さんは、どうすれば障害を持つ人たちと一緒に楽しめる映画祭ができるのか、頭を悩ませました。

2017年、夏。重松さんは「光」を上映することにしました。光は、劇中の映画作品に音声ガイドをつけていく様子を描いたもの。それを知った森さんは、重松さんに上映時の具体的なバリアフリー対応などを尋ねるために連絡をしました。偶然ですが、重松さんも同じタイミングで森さんに相談しようと考えていたのです。

光が2人を引き合わせました。

同年冬には、「光」に出演していた視覚障害当事者の方や、バリアフリー映画鑑賞推進団体「シティ・ライツ」の方を招いてのトークセッションなども行われました。当事者や映画好きな人が自主的に取り組むことが真のバリアフリー映画に繋がるのではないか。そんな気持ちが森さんたちに芽生えた瞬間です。

議論白熱の製作現場

森さん、重松さん、そして長年にわたってシアターシエマを支えてこられた映画愛好家の大歯雄司さんたちの呼びかけでみないろ会は結成されました。みんなで一緒に同じ映画を共有したい、というのが集まった人たちの一致した思いです。

とは言え、最初はみんな何をすればいいの?という感じ。誰も自分たちでバリアフリー映画の製作などしたことがありません。まずはバリアフリー映画のプロである、NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター、通称MASCの方に指導してもらい、とにかく1本作ってみることになりました。

最初は短いものから。もともと字幕付きの47分の映画を、3つのグループで15分づつ音声ガイドをつけていきます。映画会社からもらった台本をもとに、原稿を起こしていくのですが、これがなかなか大変な作業。つい、なんでもかんでも説明したくなってガイドが長くなりすぎたり、どういう説明をするかで議論は白熱しっぱなし。しかも3つを繋ぎ合わせると、グループごとになんとなく毛色が違う出来栄えでした。

それでも無事できあがった1本目の作品は、観てくれた人たちから「すごくよくわかった」と大好評。

今は冒頭でご紹介した2本目の作品もほぼ完成し、上映を待つのみです。
(※この記事の執筆中に、新型コロナウイルス感染拡大防止の影響で、上映は白紙になってしまったとの情報が。残念です。)

素敵な面々に愛される映画館

みないろ会の現在の実働メンバーは20数名。集まる人たちは、年齢も仕事もバラバラです。中学生で視覚障害当事者の女の子、聴覚障害の人、音訳ができる人、手話ができる人、元大学教授に新聞記者…。それぞれが得意を活かして頑張っています。中でも最後の編集作業を担う方は、高いスキルが必要なため、みんなから一目置かれている存在なんだとか。

そしてちょっと変わった肩書の方も。中心メンバーとして活躍されている、南奈々さんと梅崎智香さんの名刺には「たかだ電動機株式会社 視覚障害者支援部」とあります。たかだ電動機は、地元で長く続いているモーターや発電機の修理会社です。なぜそのような会社に視覚障害者支援部などという部署があるのでしょう?

実は南さんは、佐賀県では貴重な歩行訓練士さん。県内唯一との情報も。大学で盲学校の教員養成課程を終了した後、ずっと佐賀県の視覚障害者の方を支援してこられました。そんな南さんに理解を示してくれているお父様の会社が、たかだ電動機株式会社です。南さんは会社に籍を置きながら、ほとんど外で視覚障害者支援に携わる仕事をされています。梅崎さんは会社の電話応対などをしつつ、ガイドヘルパーとしても活躍されているのです。

こんなにバラエティー豊かで魅力的な人たちが集まるみないろ会。そしてみないろ会にとって、なくてはならないシアターシエマ。映画業界がフィルムからデジタルに移行する際、設備投資ができずに廃業した小さな映画館はいくつもありました。シエマも例外ではありません。そんな時、大歯さんたち街の映画愛好家が「シエマでずっといろんな映画を見たいからシエマのデジタル化に協力する会」を作って存続のために奔走したのです。

あの時と同じように、試練があってもずっと街の人たちに愛されながらシエマとみないろ会が続いていくことを願っています。