取材記事

視覚障害者の老後に安心を与えてくれる全盲老連と養護盲老人ホーム

年を取るのは案外いいものだ、と思っていても、誰しも老後に対する多少の不安はあるでしょう。備えあれば憂いなし。視覚障害者にとって暮らしやすい老後とは何か。まだ先のことと思っているかたも一度じっくり考えてみませんか?

全国51の養護盲老人ホーム、および特別養護老人ホームなどを含めた計84の施設が加盟する全国盲老人福祉施設連絡協議会(以下、全盲老連とする)の常盤事務局長にお話を伺いました。

全国の盲老人ホームを支える全盲老連

養護盲老人ホームをみなさんはご存知でしょうか?名前のとおり視覚に障害があって自宅での生活に不便を感じるようになった高齢者が入居する公的な施設です。

わが国最初の盲老人ホーム「慈母園」は奈良県高取町の壷阪寺に開設されました。山の上のこのお寺は清少納言が「寺は壷阪」と称えたことで知られ、ご本尊様は古くから目の観音様として信仰を集めてこられました。昭和36年、当時のご住職の尽力によって慈母園が誕生したあと、東京と広島にも同様の施設が開かれると、昭和43年それらの施設によって全盲老連が立ち上げられたのです。

全盲老連の主な役割は以下のとおり。
・全国の各都道府県に1施設を整備(2020年8月現在、富山、鳥取を残すのみ)

・行政との折衝(それまでは各施設が個別対応のため折衝や調整は難航)

・人材教育(高度な専門性が求められる盲老人施設職員の研修を開催)

ほかにも海外の大学と提携して国際交流や将来の人材確保に向けた活動をするなど、その役割は多岐にわたっています。なお全盲老連には専従のかたはひとりもおられず、みなさん本業と掛け持ちされているとのこと。常盤事務局長も本業は壷阪寺のご住職です。

入所の方法と施設での暮らし

さて。気になる盲老人ホームへの入所方法。これは措置制度という仕組みに則って進められます。端的に言えば市町村が施設と希望者の間に入って入所判断やその後の手続きをおこなうもの。なので入所したいと思ったらまずはお住まいの市役所に相談するのが第一歩となります。

ではどういった条件を満たせば入所できるのか。これについては実は一概には言えないそうです。目が見えない見えにくい、という基準が一律化されておらずすべては市町村の判断に。措置費と呼ばれる自治体の費用によって施設は運営されているため、市の財政状況も関わってくるそうです。なお入所者の負担も年金等の所得額に応じて市が判断します。

入所を検討したら。次に知りたいのは施設の内部。養護盲老人ホーム慈母園を例に見ていきましょう。

同園が山の上にある、というのも関係しているかもしれませんが、基本的な生活はすべて施設内で完結します。食事はもちろん3食完備。余暇活動も演劇倶楽部に華道部、詩吟、俳句とバリエーション豊富です。

屋内はできるだけ明るくすることにこだわりました。光を感じない入所者さんもいますが、少しでも見える人には明るさを感じてもらいたい。同様に光の色も感じられるよう廊下にはステンドグラスが入っています。またハンドサインがいたるところに付けられており、触って今いる場所を確認できるようになっています。

安全対策も万全。施設内では衝突を防ぐために左側通行をルール化。点字ブロックの敷設は言うまでもなくお風呂場の中にも手すりがあります。とにかく見えないが故の不自由さを感じさせない。これが慈母園のポリシーです。

入所者のかたのお話では、やはり同じ目が見えない人たちが暮らす施設ということで、互いに打ち解けやすく安心感があるのだそうです。

現状とこれからを見据えて

養護盲老人ホームは視覚障害者の老後にとって重要な選択肢になるでしょう。それだけに下記の課題解決が今後の大きな鍵となります。

①いかにして周知するべきか

まずは広報活動。まだまだ周知が足りていません。老齢になってから盲老人ホームの必要性を感じてもご本人がその情報に辿り着けないのです。それどころか市役所の担当のかたでさえ知らないこともあります。その場合、目の見えないかたが特別養護老人ホームに入ったりするのですが、もちろんそこには専門的な教育を受けた職員さんはいません。結果として、お互いに困ってしまう事態になります。

②変化する時代への対応をどうするか

老人福祉法が制定された頃と大きく時代は変わっています。人生100年時代となり、80代後半から90代になって入所されるかたも増えてくるでしょう。そうなると経済的体力的に弱い状態での入所になるなど受け入れ体制の見直しも迫られます。当然若年からの視覚障害のかたと80代で目が見えなくなったかたでは対応も変わってくるはず。そういった幅がますます広がることが予想されます。

③関わりを持つことの重要性

IT技術やSNSが進化している中。高齢者だから使わなくてもいい、ではなく、新しい技術との関わりを持つことは大事でしょう。同様に地域との関わりもそう。超高齢化社会で街にお年寄りが大勢いる状態です。入所者の余暇活動も施設内だけでなく外に目を向けていくことが必要かもしれません。

これらに対し常盤事務局長はさまざまな研修を実施。福祉だけに留まらず、あらゆる分野から講師を招いて難題に立ち向かっています。

年を取るとはどういうこと?

ある白杖使いのスペシャリストがこんな話をしていました。「最近は駅のホームがより怖いと感じるようになった。先輩たちも年齢とともに単独歩行が怖くなるって言ってる」と。その一方で、常盤事務局長が先天性全盲のかたから聞いた話では「自分が老けていくのを鏡で見たことがないので老けるというのがわからない」とも。

常盤事務局長は「自分の老けを感じる会」をしないといけないかなぁと語ってくれましたが大賛成です。高齢者の車の運転事故にみられる、体力や反射神経の衰えと自分自身の老いの認識の不一致。視覚障害者も安全に暮らすために自分の老いを正しく認識すべきでしょう。

ぜひ現役世代の視覚障害者のかたにも、年を取るということについて考えていただけたらと思います。そしてもうひとつ。盲老人ホームを多くの方に周知していただけたら幸いです。