福祉・支援組織

ゆりかごから墓場まで! イギリスにおける視覚障害児・者の福祉事情

世界各国の視覚障害者はどのような支援を受けているのでしょう。また福祉制度や支援者教育は日本とどういった違いがあるのでしょう。

イギリスの視覚障害者福祉を視察し、意義深い報告書を発表された三浦久美さんにお話を伺いました。

現状打破のヒントを求めてイギリスへ

北九州市で社会福祉士として活躍されている三浦さん。資格を取得して17年、視覚障害者の相談や訓練に携わるようになって12年。経験を積み寄り添えば寄り添うほど、相談者のニーズに対応しきれない現状に歯がゆさを感じるようになりました。

そんなとき公益財団法人社会福祉振興・試験センターの海外研修制度に関する募集を目にしたのです。新しい視点が欲しかった三浦さんはこれに応募。みごと選考を通過し、2018年11月、イギリスに向けて旅立ちました。調査テーマは「イギリスの視覚障害児・者に対する多様な生活支援の実情と支援者の関わりについて」。

20日間にわたる行程は、イギリス最大の福祉団体にはじまり、眼科、教育機関、高齢者施設、地域のNPO組織、生活支援サービス付きの集合住宅に至るまで非常に幅広い内容となりました。

この調査結果は三浦さんが主催団体に提出された報告書で読むことができます。ぜひみなさんもご覧ください。(noteでも訪問記を執筆されています。→三浦さんnoteページ

英国王立盲人協会本部の主要サービス

報告書を読む時間がない方のために、英国王立盲人協会について簡単にご説明します。RNIBと略されるイギリス最大の視覚障害者支援団体で、グループ全体の職員数が約2,000人。支援の幅もボランティアの数も大規模です。歴史は古く日本の明治元年に当たる年に設立。イギリス全土に支部があり、中でもロンドンの本部が実施している4つのサービスは大変興味深いものです。

①視覚障害に関する専門的な電話相談サービス

政府からの給付金の受け取りに関することや日常生活での困りごとなどさまざまな相談に専門のスタッフが対応してくれます。

②固定電話による当事者間のトークグループ

視覚障害者同士でコミュニケーションを取るためのサービス。数あるトークテーマの中から興味のあるグループに参加することができます。通話料はRNIBの負担。

③視覚障害児と家族のための支援コーディネーター

視覚障害児が成長していく過程で必要となるサポートをコーディネーターが担う制度。対象は障害者の成人年齢として定められている25歳まで。

④ロービジョンクリニック(LVC)

ここではOptometrist(検眼士)がロービジョン患者に適切な検査を行い、補助具の選定や残存視機能を活用するための訓練を行ってくれます。

イギリスと日本の違い

RNIBのような組織が国内全域をカバーしているのはさすが福祉国家。ほかに日本とどのような違いがあるのでしょうか。

ひとつはキャリア形成のルートが確立されていること。専門職を養成する大学(バーミンガムシティー大学)があり、面接やアセスメントの方法、コミュニケーション手法や視覚リハビリテーションの指導法など、充実したカリキュラムが用意されています。受講生の中に現職の福祉従事者が数多く在籍しているのも特徴的。さらに2年間の基本コース終了後に、専門技術を高めるため、視覚障害児や重複障害者への指導法を学ぶコースまであります。

歩行訓練士の研修以外、現場で先輩から学ぶか自分で勉強するしかなかった三浦さんは、大変羨ましがっていました。

つぎにECLO(エクロ)と呼ばれる医療と福祉の橋渡し的職業の存在。常勤もしくは非常勤で眼科に勤務し、患者が必要とする福祉やサービスに繋げています。視覚リハを受けたほうがよい、治療法がないので次のステップに進むほうがよいなど、ドクターの判断でECLOに引き渡します。その役割は福祉サービスの情報提供や福祉施設の紹介だけに留まりません。患者の住む地方自治体との調整や、就労に関するアドバイスもおこなっています。

日本でも少しづつスマートサイトなどが広まり、医療から福祉への道筋ができはじめていますが、この部分においてはイギリスより遅れている印象。なおECLOを養成するコースも大学にあるそうです。

ただ何もかもイギリスが優れているわけではありません。三浦さんが視察したいくつかの施設で、日本に旅行に行ったことがあるという方から言われた言葉がこちら。

「日本は点字ブロックが至る所に設置されててすごいね!」

日本発祥の素晴らしい設備が海外でも評価されているようです。

貴重な経験を日本の視覚障害者福祉のために

イギリスで学んだことを日本でどう生かせるのか。三浦さんは、お国柄の違いもあり、イギリスでうまくいってることを日本にそのまま当てはめられるとは限らない、とした上で、それでもまず自分で動ける身近なところから、良いと思ったことをはじめていきました。

三浦さんが目をつけたのはRNIB本部でおこなわれていた、障害を負って間もない人たちだけのグループトークです。視覚障害者になったばかりの頃はみなさん情報が足りません。該当者に呼び掛け、職場でそれに類似する行事をおこないました。

この海外研修を振り飼って「一生に一度あるかないかの経験。めちゃくちゃ大変だったけど刺激的だった。」と語ってくれた三浦さん。

たしかに大変さは並大抵ではありません。スケジュール立案もアポ取りも全部自分でおこない、出発までに不在の間の業務調整をおこない、帰国後は溜まっている仕事と研修旅行の会計処理と報告書作成に追われる日々。ですがこの苦労と引き換えに大きな財産を得たことでしょう。

今後も三浦さんのあとに続く方が出てくるのを期待しています。

交易財団法人社会福祉振興・試験センターの海外研修プログラムは毎年社会福祉士、精神保健福祉士を対象に行われており、行き先とテーマは応募者自身が選択できます。ただし2020年は新型コロナウイルスの影響も懸念されるため、主催団体の発表をご確認ください。