テクノロジー

視覚障害者の歩行支援に技術と情熱を注ぐ、舞鶴高専の工学博士たち

新しいものを開発し世に出すのは大変な苦労があります。障害者支援を科学技術の力でなんとかしたい。そんな思いで日々研究を重ねている方も同様でしょう。障害当事者にはあまり知られてないかもしれませんが、いろんな場所で地道に障害者支援機器の開発に取り組む研究者がいます。その姿に生みの苦しみというものを再認識しました。

関西の都市部から遠く離れた京都府舞鶴市の2人の工学博士。舞鶴工業高等専門学校の片山英昭教授と丹下裕准教授もそれぞれの専門性を生かして視覚障害者支援をしたいと腐心しています。

安全な単独歩行のために妥協しない改良を

今回主にお話を伺ったのは電気情報工学科の片山先生。シーズ・ニーズマッチング交流会2019の大阪会場に出展された視覚障害者の単独歩行支援装置の概要からお聞きしました。

これは白杖だけでは検出しきれない範囲の人や乗り物を検出して移動を助ける装置です。カメラで撮った画像を解析し、それが何であるかを骨伝導イヤホンからの音声で伝えてくれます。機器本体はベルトで胴体に巻いて固定。操作は非常にシンプルで、電源オン・オフと音声を有効にするためのボタンのみ。且つ、視覚障害者にも押しやすい、形状のはっきりしたボタンになっています。

昨年(2019年)の段階では、「人が近づいてきています」といった具体的な状況を説明する仕様にしていましたが、現在は言葉ではなく警告音で知らせることを検討中。視覚障害者にとって耳からの情報はなによりも重要です。音声による説明に意識が集中することでほかの情報が疎かになるリスクは否定できません。歩行訓練士の方からのこのような指摘を受け、今後また改良と検証を進めていく予定です。

弱点を補完し合い強みを生かすコラボレーション

片山先生が障害者支援機器の開発をするようになったのは5年ほど前のこと。それまでは防犯カメラに映る人の動きを認識したり、車の出入り口でどの車が通ったかを車両番号から特定する技術などを開発していました。片山先生より先に、障害者支援に取り組んでいた丹下先生から協力要請を受け、今のテーマに向き合うようになったのです。

丹下先生はもともと癌治療の研究が専門でした。そこから障害者支援につながり、視覚障害者の単独歩行に関する研究をおこなうようになりました。白杖に超音波センサーを付けて障害物までの距離を測る技術を研究しています。

得意分野で言えば、丹下先生がハードで片山先生がソフト。両者が互いの弱みを補完し合い、強みを組み合わせることでより視覚障害者の歩行支援を進めていけたら、という考えでした。

ただ丹下先生のセンサー付き白杖は、現時点では諸事情により研究が停滞しているとのこと。触地図など別のアプローチから視覚障害者の歩行支援を検討するとともに、今後は本来の研究テーマであった癌の温熱治療装置の開発に軸足を移していく可能性もあるようです。

視覚障害の当事者としては、歩行支援の研究も継続していただきたいとろこですが、癌治療の画期的な装置にも期待せずにはいられません。丹下先生が今後どの研究に力を入れていくとしても、人の健康や障害者支援を継続されるのは間違いないでしょう。

カメラ画像でバスの空席を探せ

現在片山先生が開発中の装置は人、車、自転車などの乗り物を検出し音声で知らせてくれる、という機能のため、白杖とともに使用することが前提です。また状況によっては、今まで通り周囲の人のサポートを仰がなくてはなりません。

精度をさらに高め歩行時のすべての懸念を取り除くまで改良すべきか、また屋外で遭遇する歩行以外の困りごとにどこまで対応すべきか。当事者や支援団体の人たちの声に応えたいという思いは強いものの、それらを解決するための機能をすべて実装するとなると、非常にハードルが高くなります。歩行支援機器は100%を求めるときりがありません。問題解決の範囲をどこまで限定するか。これも実用化に向けた大事な選択のようです。

なおニーズとしてあがっている中で、対応中でありながら苦戦しているのが、バスでの空席発見機能。たしかに視覚障害者にとっては空席を自分で見つけられるのはありがたいでしょう。片山先生の画像解析技術をもってすればシートに人が座っているかどうかを識別することぐらい簡単に思えます。しかしバスは前乗りと後ろ乗りがあり、後ろから乗車した場合、その位置からはシートの座面が見えません。あらゆるケースを想定しながら日夜解決策を模索しています。

開発者同士の意見交換がより良い未来を作る

片山先生が今年とくに注力されること。上にも記載したように、言葉による情報提供と警告音による情報提供の比較検証。そして実際の歩行環境に近い状況下での検証。自然環境(雨や雪)による影響の調査なども含めて、これまで以上に視覚障害の当事者と一緒になって進めていく予定です。

最後に個人的な懸念点をぶつけてみました。視覚障害者にとっては歓迎すべきことですが、昨今AIやカメラ、ロボット、衛星測位システムなどを駆使した歩行支援システムが非常に盛んな気がします。最終的にいくつかのシステムに淘汰され、多くの開発者の努力は結実せずに終わるのではないでしょうか。

しかし片山先生曰く、現在の丹下先生との関係がそうであるように、同じテーマに関わる技術者同士の交流ができれば、情報交換により淘汰されるのではなく独自性を生かした開発に繋げられるとのこと。すなわちそれは多様なニーズに対応できることになるのだとか。

今はそういった機会がないようですが、開発に携わる方だけに頼らず視覚障害当事者がそのような場を作っていけたら、より明るい未来になりそうな気がします。