取材記事

視覚障害者の街歩きに楽しさという付加価値を提供するダイナグラス

AIが人々の暮らし変えていく。そんな気運が高まる中、視覚障害者の生活を技術とアイデアで支援する起業家がいます。株式会社デジタルアテンダント代表取締役社長、金子和夫さん、その人です。

金子さんが開発されたダイナグラスは、視覚障害者の目の機能を補う製品です。AIを搭載した本体装置とネックレスタイプのウェアラブルカメラ、それにイヤホンを組み合わせて使用します。カメラが捉えた映像をAIが解析し音声で教えてくれるため、知ることを諦めていた人たちの「知りたい」を喚起してくれるのではないでしょうか。

単なるサポート機器ではないという自負

ダイナグラスには明確なビジョンがあります。金子さんの口から何度も語られた「楽しんでもらいたい」という言葉。ただ単に便利さを追求するだけでなく、視覚障害者が楽しんで安全に生活することを目指しています。

中でも一番楽しんでもらいたいのが街歩き。前提として、ダイナグラスはそれのみで単独歩行が自由にできる、というものではありません。白杖や盲導犬と一緒に歩いている方は、いつもと同じように歩いてください。その途中で街の情景を知りたいと思ったら、カメラを向けて情景認識機能を使ってみましょう。きっと今まで知り得なかった新しい発見があるはずです。

目的の場所に行くときも、そろそろこの辺りかなという時にダイナグラスが活躍します。おおよその方向にカメラを向けて文字認識機能を実行すると、街中の看板を読み上げていってくれます。もし●●銀行を目指して歩いていて、10メートル先にその看板があがっていたとして。見えない・見えにくい人にはその看板を読むことはできません。もちろん手は届かないし、触れたところで文字を認識することは不可能です。

このように取得するのが困難だった街中の情報。これらを手に入れられるのがダイナグラスです。空間にある情報を自由に自分のものにして街歩きを楽しんでいただきたい。金子さんの強い思いです。

抵抗なく使用できる利用者視点での設計

屋外で使用する支援機器にはどういう条件が必要なのか。いくら機能がすぐれていても利用者が装着したくないようでは意味がありません。

眼鏡のフレームに付ける仕様にするとどうしてもごつい感じになり、顔のまわりに周囲の人の視線が集まります。また眼鏡の片側だけ傾いたり、バッテリーも小さくなり長時間の外出に対応できなくなります。言うまでもなくスマートフォンを用いたものにすると片手がふさがり快適性・安全性が保てません。

思考錯誤の末、首からかけるネックレスタイプのカメラに落ち着きました。本体装置も鞄に入れてしまえばさほど邪魔にならず、重量も厚めの文庫本1冊分ぐらいでしょうか。「利用者の立場に立って考えたい」という金子さんの考えが詰まった製品です。

もちろん、街歩き以外にもスマホのAIアプリにある機能はほとんど網羅しています。本や商品パッケージの文字を読んだり、人物の概要を教えてくれたり。そしてそれらのモード切り替えも利用者視点で操作しやすく設計されています。

安全があってこその楽しい屋外歩行

楽しい街歩きに欠かせないもの。それは安全に移動すること。ダイナグラスでは安全な歩行をサポートするためにもさまざまな機能を備えています。

まずは信号認識機能。その名のとおり信号機の色を判別し、教えてくれる機能です。技術的なことは省きますが、例えば本を読む場合の文字認識と命に係わる信号認識の処理は完全に分けられています。そのため最大でも0.5秒以内のタイムロスで「信号は青です」という情報を連続して受け取ることができます。

次にアクティブフットプリント機能。これは誰かが歩いた足跡の情報を集めたもの。具体的にはあるユーザーが歩道を歩いていて、この場所は頭上の看板にぶつかる危険性があると知った場合。その情報を登録しほかのダイナグラスユーザーと共有できる機能です。もちろんこれが効果を発揮するには、膨大なユーザー数が必要です。それでも視覚障害当事者の家族や友人が、事前にその人の歩行経路を確認して注意箇所の情報を登録したり、視覚障害者がたくさん集まるイベント会場周辺の危険個所情報を主催者があらかじめ登録しておけば、今よりも安心して歩ける場所が増えるのではないでしょうか。

ゴールはまだまだ!機能追加に意欲を見せる

現時点でも充実した機能を搭載するダイナグラス。それでも理想とするシステムには遠いようです。早く提供したかったので、100点の機能が備わる前に製品化しました、とのことですが、ではこの先どんな機能が生まれるのでしょう。

直近では準天頂衛星みちびきと繋ぎ、より正確なガイド機能を用意したい。またエレベーターやトイレの温水便座など、身の回りのいろんなボタンを読めるようにもしたい。まだ難しいけれど、段差を事前に認識する機能も考えていきたい、と次々に金子さんの口をついて出てきました。

都度追加される新機能については、既に購入済みの方も利用可能ですのでご安心ください。むしろ購入後のお客様にこそどんどん意見をいただいて、それを開発に生かしていきたいのだそうです。

そして機能追加のほかに考えていること。その名も(仮称)夕陽を見に行こうプロジェクト。見えない人にも夕陽が綺麗な場所に行って楽しんでもらおうという企画です。ダイナグラスを使えばできるはず。そんな自信を感じ取れる金子さんの表情でした。

今後の活動として、展示会などにも積極的に出展していかれる予定です。多くの方に体験の機会が訪れるでしょう。「使い方次第で役に立てることがたくさんある。それぞれ自分にあった楽しみ方を見つけてほしい。」こんな金子さんの言葉を実感してみたい方は、ぜひ一度ご自身で体験してみてください。