取材記事

必要としている人に必要とされる情報を提供する「点訳きつつき」

点字が読めない方。視覚障害者でも多いですよね。でも点字読めたらいいな、と思うことありませんか?

ある視覚リハのイベントでのこと。点字を読みながら司会をする女性がいました。晴眼者が進行表を読む場合、顔の前に持ってくるか、位置を下げて目線を下にしなければなりません。視覚障害のその女性は、しっかり前を向いて、お腹の辺りで点字を読んでいました。その姿がかっこよかったのを覚えています。

点字に興味はあるけど読めない、という皆さん。点字に触れるひとつの手段として、点訳サークルの活動を知ってみてはいかがでしょうか。

夜間講習1期生から続く点訳への思い

点訳とは、漢字や仮名などの文字を点字に翻訳する作業です。点字を必要としている方には大変有難い存在で、全国の点訳ボランティアさんによって支えられています。今回は点字についてまったく無知な筆者が「点訳きつつき」の会長・齊藤宮子さんに点訳の初歩の初歩を教えていただきました。

東京都墨田区で活動されている「点訳きつつき」は、総勢67名の会員さんで構成されています。(2020年1月現在)

仕事や子育てをしながら参加されている方も多く、「できることをできる範囲で」がサークルのモットー。活動の中心である定例会は、毎週、火・水・金・土に開催。時間や場所は曜日によって異なります。もともとは墨田区が開催した夜間の点訳講習1期生の方たちによって結成されました。1988年の発足だそうですので、30年以上もの間さまざまな点字情報を届けてこられたことになります。

 手作業からパソコン作業へ

そもそも点訳とはどのようにして行うのでしょうか。いきなり翻訳するものと思っていましたが、実は前段階に大事なことがありました。

最初は対象となる原稿を正しく音に変換するところから。平たく言うと、漢字の読み方の確認です。固有名詞は特に大変らしく、とりわけ最近のキラキラネームには相当苦労されるのだとか。次に分かち書き。点字を読む人が読みやすいように、決められたルールにしたがって文節ごとに分ける作業です。国語が苦手なお子さんも、この作業をやれば成績アップするのでは??

こうして準備が終わったら、いよいよ点字に変換していきます。昔は点字板やタイプライターで1文字づつ書いていたので、間違えると用紙1枚がはじめからやり直しに。苦労して点訳していったのに、最後の最後で間違えたりすると…。想像しただけでめちゃくちゃ凹みそう。当時から点訳されていた皆様、本当にご苦労さまでした。

今はパソコンで点訳ソフトを使って作業します。また原本を裁断して電子データ化し、それを変換ソフトにかけるケースもあります。小説類はこの方法でかなり正確な点字データになるので、そこから校正作業に移れば大幅な時間短縮ができますね。昔に比べて点訳ボランティアさんの作業負荷が軽減したようで、ITの力は大きいと実感しました。

適不適を超えて誰もが参加できる活動

では初めての人はどれぐらいで習得できるのでしょう。パソコンに慣れているかどうかで変わってきますが、早い人でも1年ぐらいはかかるそうです。向き不向きもあり、長年頑張ってもひとりで任されるレベルには到達できない方も。

点訳のパソコン操作は6点入力という方法でおこないます。点字を構成する6つの点を特定のキーに割り当て、その組み合わせに応じて、該当するキーを同時に押すらしいのですが…。うーん、たしかに難しそう。

ただ、地域で活動している点訳サークルは、点訳作業以外にもやることはいっぱい。なので点訳きつつきの会員さんも、

・学校への出前授業
・図書館や区のイベントでのワークショップ
・福祉機器展などへの参加

などの要請に応えて、ご自身の得意なフィールドで活躍されています。

点訳ボランティアに興味はあるけど習得できるか不安…とお考えの方。やってみたい、と思うその気持ちが一番です。ぜひお住まいの地域の点訳ボランティア団体を探してみてください。

なお点訳きつつきに参加ご希望の方は、以下のリンク先からお問い合わせ願います。

点字は究極のバリアフリー文字

難しさはありますが、点訳きつつきの会員さんは、下は30代から上は80代の方まで、みなさんご自分のペースで楽しく活動されてます。

そしてこのサークルに参加して何よりも嬉しいのは、利用者さんから「役に立ちました」の言葉をいただいたとき。また点字シールつきの絵本をお送りする活動の中で、受け取った方から「みんなで楽しめました」とか「子どもが何度も読んでと言って持ってくる」といったお便りをいただくと、会員の皆さんで「あと1年は頑張れるね」と喜びあっているそうです。

デイジー図書や音声データによる情報が充実している昨今。点字の必要性や優位性を会長の齊藤さんに尋ねたところ「ただ耳を通り過ぎるのではなく、何度も確認しながら読めて、考えながら読めること。また視覚障害の方がご自分で書いた文字をご自分で確認できることではないでしょうか」とのお答え。また点訳者は点字を目で読むことから、手でも目でも読める究極のバリアフリーな文字だと思う、とも教えてくれました。

最後に、点訳きつつきの目指すところをご紹介します。
①クリスマスプレゼントの点字シール付き絵本を今よりたくさんの方にお届けしたい。
②英語や理数系などの専門点訳にも力を入れていきたい。

②に関しては専門点訳者の高齢化で引き受け手が少ない状態。点訳きつつきの皆さんの頑張りに期待しつつ、行政がボランティア頼りという実情も多くの方に知っていただきたい問題です。