取材記事

あなたは誰かの役に立つ! Dr.福場に学ぶ、視覚障害者が心を健康に保つ秘訣 ~前編~

視覚障害者のみなさんは心の健康に気をつけていますか?見えない見えにくいために、悩んだり落ち込んだりイライラしたり。視覚障害者なら多くの方が経験していますよね。ではそういった心の問題にどう対処していけばいいのでしょう。ヒントを求めて精神科医の福場将太さんにお話を伺いました。

北の大地で日々患者さんに向き合っている福場医師も、実は視覚障害当事者です。見えなくなっていく過程で、自暴自棄になりかけたり挫折しそうになったこともありました。ただそれも含めて、心の病気を抱える患者さんからの信頼に繋がっています。

福場医師について詳しく知りたい方は、以下のサイトをご覧ください。

考え方を変え、工夫と研究をし、人の役に立とう

視覚障害者と一口に言ってもさまざまです。人生の途中で突然見えなくなった場合、絶望感ははかりしれません。いったいどのように心を立て直せばいいのか。福場医師に尋ねてみました。

「健康を失うってとてもストレスが大きいんですよ。いわゆる喪失体験ですけども。特に目というのは誰にとっても大切なものですから。で、どういうふうにしていくか。眼科医療の発展を信じるのもひとつではありますが、まだまだ時間がかかりますからね。捉え方を変えて、目は見えなくなったけど自分で新しい人生をつくる、と考えるのがひとつのやり方だと思います。やっぱり目が見えないと掴めないものってあるので、いつまでもそれにこだわって、ああしたかったな、こうしたかったなと思いながら生きていくのは苦しいことです。だから最初に目指していた幸せにこだわりすぎないっていうのが大事かもしれません。目は見えなくなったけど新しい人生で幸せになるぞ、と。」

いっぽう、筆者と福場医師は同じ進行性の病気で徐々に見えなくなる恐怖感があります。その場合はどうなんでしょう。

「じわじわ見えなくなるっていうのもやっぱり苦しいですよね。ただ、ちょっと病気が進行したらそれに対応する工夫をして乗り越える。そういう工夫ができる時間があるのは強みだと思うんです。たしかに辛いんだけど、昨日と今日が大きく違うわけではないですから。ちょっと見えなくなった、工夫して乗り越えた。またちょっと見えなくなった、また工夫して乗り越えた、というふうに繰り返していって、病気と追いかけっこをしてるような感じで、病気が進んだらこっちも前に進む、というのが心がけとして大事じゃないですかね。それに見えてる時間が限られてると思えば、人生を大事に生きるとか、ものごとを先に延ばすのではなく今やろうって。病気が背中を押してくれてる気がします。」

あと、まだ多少見えてる段階での周りへの打ち明け方。わりと悩むところだと思うんですが…

「これは研究だと思ってるんです。病気の研究と同じぐらい大事な研究で、どういうタイミングでどういう言葉で打ち明ければいいのかとか、むしろ言わないほうがいいのか、とか。これこそが実は視覚障害者が一番研究しなくちゃいけないテーマで。医者ではなく当事者が研究するしかないんですよね。で、僕はカミングアウトの研究って呼んでるんですけど。言えば言うほどいいわけじゃなく、かといって言わないと誤解やトラブルになるし。なかなかわかってはもらえないんだけど、わかってもらうための努力は必要ですよね。それを集まって語り合ったり、情報を共有するのも大事じゃないかと思うんです。」

そして何よりも目が悪くなった方が元気な心でいるためには、何らかの形で人の役に立つのが一番だと思う、と語ってくれました。人の役に立つ、と聞くと難しく感じるかもしれません。後編の記事で詳しく取り上げますが、自分では気づいてなくても実は誰かの役に立てることがあって、それを知ることが必要なのでしょう。

「なつひこせやま」で早めの対策

コロナ自粛中も心が健康でいられるために気をつけておくことを、福場医師にお聞きしました。

「僕は患者さんに話をするとき、自分の心から元気を奪っていく原因を、なつひこせやまと覚えてもらっています。人の名前みたいですが、これは頭文字を取っていて、『な』が悩み、『つ』が疲れ、『ひ』が暇、『こ』が孤独、『せ』が生活リズムの乱れ、『や』が病、『ま』がマネー問題。この7つをうまく解消していけば心はわりと元気になれるんです。」

なつひこせやま、興味深いのでひとつづつ丁寧に教えていただきました。

「まずは悩み。今回で言えばいつもより悩みや不安が増えてると思うので、ひとりで抱え込まず人と話すこと。話したからと言って名案が浮かぶわけではないかもしれないけれど、誰かと話すのが大事です。それと視覚障害者は家での趣味を持ってる人も多いと思うので、その強みをいかして家で楽しめることをちゃんとやりましょう。次に疲れの予防としては、余力を残すこと。コロナは終わりが見えないマラソンをしているようなもの。頑張るのは大事だけどもたなくなるので頑張りすぎない生活をしましょう。暇に関して。今はずっと家にいて暇な人も多いと思います。人間は忙しすぎて疲れるのもよくないですが暇すぎるのもよくありません。やることを入れるのが大事です。お酒などに走って依存症にならないよう、健全な趣味で暇を予防しましょう。それから、孤独にならないためには人と交流すること。今こそ懐かしい友だちやしばらく連絡をとってなかった人に、大変だけどそっちはどぉ?って連絡するのがいいかなぁと思います。あと生活リズムが乱れると、心も体もどんどん健康じゃなくなっていきます。決まった時間にご飯と睡眠をとるのを意識すること。で、病の問題としては、最近は病院に行くのも躊躇する人が多いんです。ただ、普段かかっている病気の治療は怠ってはいけません。持病が悪化するとコロナにかかるリスクも高くなります。また暴飲暴食で高血圧や糖尿病など別の病気になることにも注意をしましょう。最後のお金の問題に関しては医療だけではどうしようもないんですが。少なくとも医療費が払えないとかであれば病院の専門窓口が相談に乗ってくれます。鬱だけどお金がないから病院に行けないという人がいたら、病院でちゃんと相談してください。」

各自なつひこせやまを意識して、深刻な状況になる前に自分でチェックしてみるといいかもしれませんね。

(後編につづく)