レクリエーション

見えない人にも写真を 尾崎大輔さんの取組みが常識の壁を壊していく

写真と視覚障害者。イメージだけで不似合いだと思っていませんか?
晴眼者でもカメラに詳しくない人は写真を趣味にするのって難しそう、と感じているかもしれません。

構図がどうとか、絞りがどうとか、露出がどうだとか…
上手く撮ろうとするとたしかに技術的に習得することはたくさんありそうです。でも写真家・尾崎大輔さんの言葉を聞いていると、もっと自由に楽しめばいいんだ、と思えてきます。

そして見えなくても写真の楽しみ方はいろいろあるのだと知ることができました。

好奇心が生み出した新しい発想の写真教室

写真家・尾崎大輔さん、テレビなどでご存知の方も多いでしょう。「視覚障害者と一緒に楽しむ写真教室」を開催し、視覚障害者に写真と触れ合う楽しさを届けています。この写真教室では視覚障害者が撮影した写真を凹凸にして触って感じられるようにしているのですが、いったいなぜ、晴眼者の尾崎さんがこのような発想を思い付くに至ったのでしょうか。

もとは出版社志望だった尾崎さん。早稲田大学在学中に、インターンシップ先の編集部からカメラの仕事をまかされたのがきっかけで写真家の道へ。視覚障害者との出会いは早大卒業後のイギリス留学のときでした。障害のある人と健常者が一緒に活動している劇団に入り浸るようになり、そこで視覚障害者の方とも接するように。

帰国後、国際視覚障害者援護協会の会長と仲良くなったことから、視覚に障害を持つアジアからの留学生を撮影し始めます。そんなある日、ふと留学生の人たちに写真を撮ってもらったらどうなるだろう、と考えました。彼らは日本のことをまだあまり知らないし、日本をその目で見たこともない。カメラマンとしての好奇心が一気に膨らみました。

社会福祉法人 国際視覚障害者援護協会とは。
発展途上国の視覚障害者の自立を目的とし、理療の施術技能やIT技術などを習得してもらうために、日本での留学を支援している組織です。

こうして始まった視覚障害者に写真を撮ってもらう試みは、やがて写真教室に形を変え、2011年に第1回を開催して以来多くの視覚障害者から好評を得ています。

堅苦しく考えず気ままに撮りたいものを撮ってみよう

では視覚障害者が写真教室での撮影で気を付けるべきはどういった点でしょう。

初めて参加される方は、被写体の選び方です。最終的に凹凸写真にするため、触ってわかるものがお勧め。やはり風景はなかなか指の感覚ではわかりにづらいものです。といっても、尾崎さんは強制するわけではありません。基本的には参加者の方が撮りたいと思うものを尊重します。

撮りたいものが決まればあとは被写体にレンズを合わせてシャッターを切るだけ。ちゃんと撮れるの?と不安に思われる方。ご心配ありません。尾崎さんの写真教室では介助者とペアで撮影していただくのですが、介助者の言葉に沿って狙いを定めれば誰でも簡単に撮りたいものをレンズに収められます。

この体験を機にもっと一人で撮りたいと思ったらスマホでも十分。高価な機材を揃えなくても、とにかく気ままな感じでやるのが一番です。

見る以外にも写真はたくさんの幸せを運んでくれる

さぁ、少しづつ写真に興味が沸いてきた方もいるでしょう。それでも、結局撮ったものを見ることができないし…などと考えていませんか?なにも晴眼者と同じ楽しみ方をする必要はありません。どんなふうに楽しめるのか、まずは知ってみてください。

  • これまで気付かなかった道端の風景を知る
    ふだん道を歩くとき、大抵は行き先が決まっていてそこまで安全に行くのが第一の目的となります。一方写真教室は写真を撮る以外の目的がありません。特にカメラマンが介助者として付く開催回では、道々歩く中で周囲のものを詳しく伝えてくれるので、きっと新たな発見があるはずです。

  • 他人の言葉でイメージを作り上げる
    Facebookやインスタグラムなど、SNSに写真を投稿すればコメントをもらえるかもしれません。自分では見ることができなくても、第三者の言葉でよりイメージを鮮明にすることができるでしょう。また晴眼者と一緒にでかけたときの写真であればその人と思い出を共有することもできます。

  • 凹凸写真にして家族の写真を残す
    お子さんの写真を見たい(触りたい)・残しておきたい、という切実な思いをお持ちの方へ。尾崎さんは写真教室以外でも凹凸写真製作の依頼を受けています。大切なご家族の写真を触って心に刻んではいかがでしょうか。【注:触っただけではわかりにくい方もいますので、家族写真の場合は尾崎さんが言葉でも説明してくれます】

写真と視覚障害者の組み合わせをもっと当たり前に

冒頭の質問。みなさんはどのように受け取られましたか?
尾崎さんの写真教室を知れば「写真と視覚障害者」が自然なものに感じられたと思います。

それでも社会にはまだ誤解も多く存在しています。ある視覚障害のお母さんが、お子さんの学校行事の写真を購入したいと言ったとき「見えないのに買ってどうするの?」と言われたことがありました。大変傷ついたそうです。前述のとおり、お子さんの写真を残しておきたいと思うのは自然なことです。そのためにも凹凸写真が視覚障害者以外の人にも広く知られたら、と願わずにいられません。

今は首都圏を中心に開かれている尾崎さんの写真教室。ご要望があればほかの地域でも開催可能です。(料金のご相談をはじめとするお問合せは尾崎さんのサイトから)

もしいろんな場所で手に白杖とカメラを持った人が増えていけば。写真についての誤解だけでなく、視覚障害者へのさまざまな理解が進むような気がします。

ただ尾崎さんは「写真と視覚障害者」についてもっと純粋でシンプルな思いを伝えてくれました。写真を撮るには外へ出かける必要があります。外に出るのが苦手だった人が、写真をきっかけに「外へ出よう」と思ってくれたら、それこそが一番意義のあることだと。