取材記事

弱視のフレッシュウーマンに訊く、見えにくい中での就活と新社会人生活

見た目にはまったく視覚障害者だとわからない田中美由紀さん(仮名)、23歳。今どきのお洒落な女性という感じで、見えにくくてもヒールは5cm以上のものを履きたい!というこだわりを持っています(笑)

今年の3月に大学を卒業し、4月からは新社会人として親元を離れ一人暮らしもはじめました。一緒に行動しながら傍で見ていても、まったく目が悪いようには見えず、つい「本当に視覚障害者?」と疑ってしまったほど。他人から理解されづらい大変さは十分わかっているはずなのに…同じ視覚障害の当事者がこれではダメですね。

そんな見え方の彼女に、就職活動の体験談、そして仕事への思いを語っていただきました。

情報がない! 障害に向き合って来なかったし地方だし

- あらためて田中さんの目の見え方について教えていただけますか? - 

未熟児だったことによる先天性の病気で、全体的にぼやけていてもやがかかった感じの見え方です。視力は0.05、上下の視野がやや狭い状態なので、階段を踏み外したり上からぶら下がっているものに気付かずぶつかったりします。

- 手帳は取得されてますか? それから日常での困りごとがあればお聞かせください - 

手帳の等級は現在3級です。前まで5級だったのですが3級になってしまいました。進行性の病気ではないのに自分でも見えづらくなっている気がして将来もっと見えなくなったらという不安はあります。

困っていることとしては、見た目でわからないところが一番の悩みです。周りからは見えてると思われがちなので。

- では就職活動についてお聞きします。障害者の就活で困ったことはどういうことですか? -

一番困ったのは情報収集です。わたしが地方在住だったことと、視覚障害に向き合って来なかったことで、障害者雇用での就職先をどうやって探せばいいのか、どうやって入社試験を受けるのか、何もわかっていませんでした。

- それで情報がない中どのように就活を進めていったんでしょう? - 

最初に大学の就職支援室で、障害者雇用で就職したいと伝えたところ、地元(X県)で就職したいなら就労支援事業所しかない、あとはわからない、専門外だ、と言われて門前払いでした。わたしは正規雇用を目指していたので、そう言われてしまうとどうしたら良いのかわからず中断してしまいました。ただ周りの友だちがどんどん動いている中、これはまずいと焦り、もう一度就職支援室に行って前とは違う人に相談しました。

- 大学の就職支援室の対応に疑問は残りますが、2度目はどうだったんでしょうか? - 

その時もあまり相談にはのってもらえませんでしたが、ウェブ・サーナという障害者用就活サイトの冊子をもらいました。それでサイトに登録してエントリーしたり、合同企業面談会に参加してようやく就活をはじめることができました。

- 情報収集で困ったというのは、地方のため大学に障害者の就職支援のノウハウがなく、田中さん自身にも情報がなかったということなんですね - 

はい。わたしは先天性なので子どもの頃から視覚障害者という自覚はあったものの、ちゃんと障害に向き合ってきませんでした。小学生の頃、最初は目のことを学校にも伝えて席を前にしてもらっていましたが、クラスメイトに理解されず「なんでなんで」としつこく聞かれたり嫌な思いをしてきたので、だんだん視覚障害を隠してばれないように振る舞うようになりました。なので中学高校の友だちは今でもわたしが視覚障害者だということをほとんど誰も知りません。

何も知らないから筆記試験も見えにくいまま受験!

- では現在の会社から内定をもらうまでの選考過程についてお聞かせください - 

選考は筆記と2回の面接でしたが特に困ったことはありませんでした。というのも合同企業面談会で人事の方に障害のことを話して配慮して欲しいことも伝えることができたからです。

敢えて言うなら、人が少ない田舎から大阪や東京に一人で行くのが少し不安だったぐらいです。

- では面接も筆記試験も障害がネックになることはなかったと? - 

面接官には、合同企業面談会での話がすべて共有されていました。ですので入社後の配慮について、自分で予測できる範囲のことをお伝えしたぐらいで、あとは一般の学生と同じ条件での面接だったと思います。筆記試験については、文字が読みづらかったのでカンで解きました。5択の選択問題でしたから(笑)

- 就職試験を読めないままカンで解くとは… それこそ配慮してくれなかったのでしょうか? -

おそらく事前に申告すれば何らかの対応はしてくれたと思います。ただわたしはその方法を知らなかったのでそのまま受けました。しかも自宅で受けるwebのテストだったので、画面を拡大するとかルーペを使うとかなんでもできたのですが、当時のわたしはそういうことすら知識としてありませんでした。

(感想)いくら障害と向き合って来なかったとは言えちょっと驚きです。でも結果的に就職できたのですから、田中さんの大胆さが長所として面接にも表れていたのかもしれませんね(笑)

仕事だから、成果を出すため遠慮せずに言う!

- 何はともあれ第一志望の会社から内定をいただいたんですよね? 内定から配属までの間はいかがでしたか? -

内定者懇談会も入社後の新入社員研修も、びっくりするぐらい困ることが何もなかったです。ここでも事前に配慮して欲しいとお伝えしていたことがすべて共有されていて、一番前の席に座らせてもらったり、スクリーンの内容をわたしだけ紙の資料であらかじめ用意してくれたりしていました。その資料もちゃんとわたしが読めるぐらいの文字の大きさでした。

- 素晴らしい! ところで今の会社を志望した理由はなんだったんですか? - 

社員一人ひとりに働きやすい環境づくりを考えている会社だなという印象だったんです。女性の働きやすい環境のために、在宅勤務や時短勤務なども制度としてありますし。それにわたし以外にも障害を抱える先輩社員がたくさん働いてるんです。それでわたしもこの会社に入って社員がよりよく働けるための仕事をしたいと思いました。

- よくわかりました。では現在の所属部署と仕事内容を教えてください - 

本社の総務部にいます。各事業所にある拠点総務の統括的な役割の部署で、それぞれの予算管理をしたり、庶務をおこなっています。

 

- 同じ部署の方は田中さんの目のことはご存知なのですか? また仕事をする上での困りごとはありませんか? - 

フロアには70~80人の方がいますが、皆さんわたしが視覚障害者だと知っています。パソコンもWindowsの拡大鏡を使っていますし、マウスポインタも反転させて大きくしているので仕事上不都合はありません。それに先輩方が自分のパソコンを見て話をされるときは「わたしのパソコンに繋いでください」と言うようにしています。ほかの人のパソコンを覗き込みながらだと見えないので。またマウスポインタで、あれ、これ、と言わずに具体的に言ってください、とお願いもしています。

- 拡大鏡を覚えたんだ(笑) それに先輩にも自分がどうして欲しいかをはっきり伝えているんですね。中学高校の友だちには視覚障害者だということすら打ち明けてなかったのに、その違いはなんですか? - 

やはり仕事とプライベートは違います。仕事は結果を出さないといけないですよね。見えないことで失敗しても言い訳にはなりませんから。それに、社内の視覚障害者やそのほかの障害者の先輩とつながって、ノウハウを吸収し、自分の言葉で具体的に言えるようになってきました。

- 就活を開始したときとくらべて成長をすごく感じます。では最後に。視覚障害の学生さんに就活のアドバイスをお願いします - 

わたしは最初自分の障害に目をむけず、一般での就職と障害者雇用での就職を悩みました。ですが障害者雇用での就職の方が断然いいと思います。障害者枠といっても入社後の仕事の評価は一般枠の人と同じ条件です。障害に対しての配慮はしてもらえ、逆にそれ以外で不当に低く扱われることはないので安心して働けます。ですが、それも会社によって違うかもしれません。やはり情報収集です。何より情報収集が大事です!

取材の翌日、大きなプロジェクト案件を控えていた田中さん。明日会社に行くのが憂鬱だと何度も言っていましたが、途中で仕事楽しいですか?と質問したときには、間髪入れず「楽しいです!」と答えてくれました。

視覚障害は見え方が人それぞれですので、田中さんの事例が見えにくいすべての学生さんに参考になるかどうかはわかりません。ただ悩みながら成長している田中さんの姿は必ず誰かのヒントになると確信しています。