取材記事

視覚障害者の助手席ライフを楽しくする、プロジェクトナイトのしゃべる車

普段の移動はどうしても徒歩か公共交通機関が多くなる視覚障害者。家族や友人知人の車に同乗させてもらうと、やっぱり楽だなぁと実感しますよね。乗ってしまえばあとは目的地まで運んでくれるのですから。

でも助手席で困ること、気を使うことってないでしょうか?たとえばダッシュボードに並んでいるさまざまな装備。晴眼者ならあれこれ自分で操作しますが、見えない見えにくい人はいちいちドライバーの方にお願いしなければなりません。

もし車が喋ってサポートしてくれたら。そんな希望を叶えてくれるのが「テクノロジーは平等な世界の扉!」をスローガンとするオートカスタムショップ・プロジェクトナイト。障害の有無に関係なく、誰もが快適に移動できる空間を提供してくれます。

ナイトライダーが救った母と娘の困りごと

みなさんは「ナイトライダー」をご存知でしょうか。ナイト2000という未来型のドリームカーが活躍する、80年代のアメリカドラマです。ナイト2000は今でいうAIのような機能を備え、言葉を話します。

今から10年以上前、プロジェクトナイトのオーナー清水孝生さんはナイトライダーに憧れ、喋る車いわゆるナイト2000のレプリカを自分で作り上げました。AIではありませんが、ボタンに好きな声で好きな言葉を設定すると、操作の度に喋ってくれるのです。清水さんの車は口コミで広がり、多くの方からマイカーを同じようにカスタムして欲しいと依頼が舞い込むようになりました。

そんなある日、高齢の女性とその娘さんが噂を聞きつけて、清水さんのもとに相談に来られました。娘さんの車に同乗したお母様が、エアコンの温度調節が自分できないのを苦にしているというのです。実はお母様は目が見えない方でした。親子とは言え、運転に集中している娘さんに温度の上げ下げを毎回頼むのは気が引けます。

母と娘の悩みを知った清水さん。見えなくても音声で操作できるように設定しました。おふたりの要望で操作音は娘さんの声です。カスタムされた車に乗ったお母様は、声で教えてくれるから自分でもできる、と大変喜んでくれたそうです。

事故防止のための注意勧告にも音声は必要

清水さんが正式に会社を興したの今年になってから。もともと趣味の一環ではじめたので、当初は別で本業を持っていました。音声カスタムはいわば副業のようなものだったのです。それでも今までに受けた視覚障害者の方からの注文は優に50件以上。いかに困っている視覚障害者が多いかがわかります。

音声の設定は、ダッシュボードの操作ボタンだけに留まりません。ドアの開閉にも役立ちます。乗り降りの際、視覚障害者の座っている側のドアが今開いているのか閉まっているのか。ドアが開こうとしているのか閉まろうとしているのか。それらを音声で教えてくれると、手や足をドアに挟む危険性がなく安心して乗車できます。

またトラックなどでよくある、バックするときに知らせる音声。ふつうの乗用車にも付いてたら安全だと思いませんか?ドライバーが、車の背後に視覚障害者がいるのを気付かずバックしようとしたとき。音声が大きな事故を防いでくれるかもしれません。

清水さんによると、視覚障害者の方にはこうした注意勧告のための音声設定もとても有効なんだそうです。なお音声が不要だなと感じる場面では、オフにすることもできます。

声高にUDと謳わなくても中身はUD

プロジェクトナイトに発注されるお客さんは多種多様です。たとえば痛車(いたしゃ)に乗ってる方々。痛車とはアニメキャラクターのステッカーを貼ったりしている車で、そういう方はお気に入りのキャラクターの声を設定しています(※)。また動物好きで、音声を犬や猫の鳴き声にしたいという方もいらっしゃいます。

ほかには、レンタル会社からも依頼があります。視覚障害者でなくても、ふだん乗り慣れてない車はいろいろわかりづらいもの。最近の車は装備が充実しているぶん、取り扱いを迷われる方が多いのだとか。そんなとき、説明ボタンを新たに設けて、それぞれのボタンがどういう役割なのかを音声で知らせるようにします。説明書を読むのが苦手な方にもとっても親切な機能です。

また最近の軽自動車は女性をメインターゲットにしており、化粧ポーチやちょっとしたものを入れられる収納スペースが複数用意されています。ただしこれもレンタルの場合、どこに物入れがあるのか意外とわかりません。こんなときも、内部をひと通り説明してくれる音声を専用ボタンに設定しておけばとっても便利。誰にでもわかりやすくなります。

これってまさにユニバーサルデザイン(UD)ではないでしょうか。音声サポートの技術や工夫は、視覚障害者だけに限らずたくさんの人に恩恵を与えてくれます。

(※)アニメキャラクターの声などは、お客さま自身で著作権の問題をクリアしていただき、そのデータを提供してもらっています。

平等な空間を作り上げるプロフェッショナル

残念ながらまだ今の時代、視覚障害者が自分で車を運転することはできません。でも助手席に乗ったときには、見えてない人も見えている人と同じ感覚でいられるようにしたい。それがプロジェクトナイトのスローガンにも使われている、清水さんの考える「平等」の精神。車をカスタムする仕事をしている以上、そのテクノロジーを使ってみんな平等に生きられる世界を作るのが理想、と言います。

平等、すなわちそれは一人ひとりに合った最適なカスタムの提供。だからプロジェクトナイトでカスタムした車は、世界に2つとして同じものはありません。お客さんのニーズを把握し、意向に沿った車に仕上げてお渡しするのを使命としています。

プロジェクトナイトについて、ご興味を持たれた方は以下をご覧ください。