体験取材

イグレック・飲食店で視覚障害者が食べたいメニューを自由に選べる時代

視覚障害者webメディアのミルクフ編集部です。

全盲の友人がポツリと言った言葉。「カラオケは店舗のリモコンと自分のスマホを連携して音声で操作できるのに、なんで飲食店の注文用タッチパネルは同じことができないんだろう…」

たしかに。飲食店でのメニュー選びに困っている視覚障害者は少なくありません。自分の使い慣れたスマホを操作して、音声読み上げ機能でメニューを選ぶことができたら、外食がもっと楽しくなるはずです。

そんな可能性を感じさせてくれるスマホオーダーシステムを体験すべく、開発元の株式会社イグレックにお邪魔してきました。

スマホオーダーシステム・果たしてその実態は?

イグレックの飲食店用オーダーシステムは2種類。店舗に備え付けられたiPadを使用するものと、利用客が自分のスマホを使って操作するもの。今回取り上げる後者のサービスは、QRコードを読み込んで店の専用画面にログイン。メニューの中から食べたいものを選んで注文する、という仕組み。

イグレックのサイトを発見した時、すぐに試してみたい、と思いました。しかしHP上での紹介はiPadのサービスのみ。店の備品であるiPadを勝手にボイスオーバーの設定に変更することはできるのか、という懸念が生じます。ダメもとで視覚障害者の事情をメールしてみたところ、営業の中島彰宏さんから、ぜひショールームにお越しください、とのお返事が。

実はHPには掲載されてない新サービスとして、個人スマホが使える「タップ&オーダー」という別システムがあるというのです(上記のとおり)。ただ中島さん曰く、筆者からの連絡を受けてボイスオーバーで検証をしてみたものの、うまく機能しない部分もある、とのこと。
イグレック・タップ&オーダーのメニュー画面・カテゴリーを選択

どれぐらい使えるのか。はたまた視覚障害者が自分たちで好きなメニューを選びたい、という夢は砕け散るのか。冒頭の友人とは別の、ボイスオーバー上級者KNくんと中級者ATくんの2人の視覚障害者に協力してもらい訪問する運びとなったのです。

暗雲立ち込めるボイスオーバー操作

まずは中島さんがデモンストレーションとして、タップ&オーダーの手順をひと通り見せてくれました。あらためて簡単に説明すると、

①お客さんが飲食店に入店
②店員さんがテーブルに案内する際QRコードの用紙を渡す
③お客さんが自分のスマホでQRコードを読み込む
④管理画面につながり、LINE経由かブラウザを直接起動するか選択
⑤店のトップメニューが表示
⑥カテゴリーを選択(サラダ、揚げ物、アルコール、など)
⑦商品を選択
⑧数量の変更(プラス、マイナスのボタンで増減)
⑨カートに入れる(飲食店側でこの手順は省略可能)
⑩注文を確定する
イグレック・タップ&オーダーの商品階層画面・注文したい料理を選択

中島さんのオペレーションを拝見する限りでは、画面遷移がうまくいかなかったり、ボイスオーバーを外して次画面に進んだとしも、写真が貼り付けられてるだけで読み上げされない箇所があったり…。まだ道のりは遠いのか、という印象。。。

だったのですが…!

諦めから希望へ

先天性弱視でiPhone歴7~8年のボイスオーバー上級者KNくんに試してもらったところ。さっきは読み上げなかったカテゴリーも、どんどん読んでくれる。画面遷移も問題なく次へ進む、進む。

誤解のないように申し上げると、このシステムは視覚障害者をサポートする目的で開発されたものではありません。人手不足の解消や、他店との差別化、さらには受注ミスの防止など、飲食店が抱える問題を解決するために作られています。

視覚障害者にとって使い慣れているボイスオーバーも、一般的にはほとんど知られてないのが現実です。中島さんが一度も触ったことがないのも無理はありません。たったひとりの視覚障害者からのメールに真摯に対応しようと、ボイスオーバーの使い方を調べて、社内検証し、ショールームにまで招いてくれたことに感謝です。
イグレック・タップ&オーダーの商品選択後の画面・数量選択

いずれにしろ、短時間で画面の構成などを把握したKNくん。次々と注文を確定していきます。(もちろん、テスト環境なのでどこにも繋がってません。)視力が低下してからまだ年月の経っていないATくんも、KNくんからコツを聞いて操作してみることに。スムーズにメニューを選択し注文確定までいけました。

2人の意見は、KNくん「かなり使える」。ATくん「シンプルな構成なのでわかりやすい」でした。

全国への広がりを心待ちにする

実店舗での利用に期待が持てるタップ&オーダー。いくつか気になる点はあったものの、イグレックの自社開発でありクラウドシステムでもあるため、これからも改良を重ねていけるとのこと。費用の問題や課題の優先順位などもあるでしょうから、どこまで意見を聞き入れてもらえるかはわかりません。それでも視覚障害者の実態について理解していただけたのは意義がありました。
イグレック・タップ&オーダーのカートの中身画面・注文確定を実行

では導入状況はどうなのでしょう。iPadのセルフオーダーシステムは各地に導入済みの飲食店があります。いっぽう個人スマホのタップ&オーダーは開始間もないため、まだ限られたエリアにしか無いようです。残念ながら筆者の居住エリアである関西地方には現時点で導入されているお店はありません。当日はiPadのシステムも試させてもらいましたが、こちらは専用アプリで動いており、ボイスオーバーとの相性がよくないのか、今のところ実用に耐えうる状態ではありませんでした。

まずは1日も早く実際の飲食店でタップ&オーダーを使ってみたいものです。そのためにもイグレックの皆様の営業活動に期待ですね。自分でメニューを見て好きなものを選ぶ。たったそれだけの小さなことかもしれません。それでもワクワクを感じられた、ある日の出来事でした。