取材記事

バリアフリー双六で視覚障害者と晴眼者の交流の在り方に一石を投じたい

SNSの古い書き込みに「視覚障害者と遊べる双六を考案中」という文字を見つけました。書き込みの主は翠園さんという女性。随分前に書き込まれたもので、今さらとは思ったものの、どうしても気になりアプローチをしてみることに。思いのほか早くリアクションをいただけましたが、当時誰からも反応がなくもう断念しましたとのお返事。

どういう方なのか、視覚障害者とどんな繋がりがあるのか、そもそもどれぐらい本気で双六を考えようとしていたのか。何も知らないのに、なぜか諦めきれず、失礼ながら続けていただけないかお願いしてみました。

その結果、なんと見ず知らずの人間の頼みを聞いてくれたのです。あらためて着手した翠園さんの双六作りは、今テストプレイできる段階まできました。記事の最後でモニター募集の案内を掲載しています。ぜひ最後までご覧ください。

知ったのに行動しないわけにはいかない

翠園さんは晴眼者です。視覚障害者とは一度も関わったことがありません。にもかかわらず視覚障害者と晴眼者が自然に交われる場所を作りたいと語ってくれました。

きっかけは時折ニュースで流れる視覚障害者のホーム転落事故。社会のサポート体制が不完全な現状に、何かしなくてはとの思いが募りました。白杖を持っている視覚障害者は街中で親切な方に出会う機会も多いと思います。それでも困っている人を誰もが自然にサポートできる社会かと言えばそうではありません。他人への興味関心が薄れがちな現代だからこそ、知らない者同士でもお喋りしながら楽しい体験ができるボードゲームで、視覚障害者と晴眼者の距離を縮めたいと考えました。

また翠園さんが東京駅で電車を待っていた時のこと。鉄道ファンらしき全盲男性と母親と思しき女性がいるのに気付きました。晴眼者の鉄道ファンなら、仲間や自分一人で来ることができます。ところがその男性は、高齢で立っているのも辛そうな母親に付き添ってもらっていました。晴眼者と趣味の交流ができたらこのお母様も安心だろう。未だに翠園さんの目にはその光景が焼き付いて離れません。

さらに視覚障害者の歴史を本で読むうちに知識が増えていきました。自分で木版活字を作って日記を書いた人、点字ブロックを発明した人、今に伝わる日舞の曲を作り上げてきた盲目の芸能者たち。できないことを自分たちの手でできるようにしようとする先人たちの思い。それを知ったのに、視覚障害者の知り合いがいないとか、どうサポートすればいいかわからないとか、サポートする練習を行う機会がないなどと言って、このまま何もしなくて良いのだろうか。翠園さんに決心が生まれました。「行動しなければ」

得意なもので役に立てること、それが双六だった

ではなぜ双六だったのでしょう。

もともと一人で集中して作業するのが苦にならない翠園さん。編み物が得意で、ほかにも何かを作って表現したいという思いもありました。それにボードゲームはプレイヤーがみんな対等に勝負できるのが好きで、これまでにいくつか双六を自主製作してきた経験があります。この記事のアイキャッチ画像として掲載している写真も、翠園さんが大好きなカカポという飛べないオウムをテーマにした双六です。

第一の目的は晴眼者が視覚障害者と交流するためのきっかけづくり。翠園さんの特技を生かせて且つ入り口が多くなるものと考えたらゲームだったのです。

とは言え、一般的な双六はボードや紙にスタートからゴールまでのマスが描かれており、その上をコマを進めていく遊びです。ボードに書かれた絵を見ることが難しい視覚障害者が楽しめるようにするにはどうしたらよいのか。思案し友人や知り合いのゲーム作家さんにも意見をもらいながら、徐々にアイデアを固めていきました。

そして翠園さんオリジナルの触ってわかる双六の骨子が完成したのです。詳細はここではお伝えできませんが、全盲の方も弱視の方もみんなが楽しめるように、ボードやサイコロといった普通の双六で使う道具に工夫を凝らしたゲームになっています。

道具やルールだけでなく、ゲームのシナリオにも翠園さんのこだわりがあります。テーマを七福神にしておみくじの要素を盛り込みました。おみくじの内容は視覚障害者に関するもので、止まったマスのおみくじによって得点や失点が発生。楽しく遊びながら視覚障害に関する知識も増える、そんな素敵な双六です。

小さな波を起こすためモニターを募集します

まずはモニターを募って検証を行います。第一弾は晴眼者の方限定。これはゲーム自体の不備や改善点を見つけるためです。視覚障害者の方が使って楽しく遊べるかの検証は、第二弾のモニタリングで行う予定です。

なおモニターの方への謝礼金や交通費などをお支払いできる余裕がございません。ボランティアとしてご協力いただける方のご応募をお待ちしています。

日時、場所などはまだ曖昧ですが、現時点では以下のようになっています。

●日時:2020年1月もしくは2月、土日の昼間
●場所:都内もしくはさいたま市内
●人数:5~6名

ご興味を持っていただけた方は、翠園さんのSNSアカウントにご連絡いただくか、SNSを利用されていない場合は、当サイトのContactページからお申込みください。

●翠園さんTwitterアカウント → @BoomHisui
●翠園さんmixiアカウント → 翠園(ID:61792135)
●当サイト・ミルクフのContactページ → https://mirukufu.com/contact/

ゲーム開発のプロでも、障害者支援の専門家でもない翠園さんが仕掛ける双六。何かを変えるにはあまりにも小さな力かもしれません。それでも翠園さんが望む、視覚障害者と晴眼者が自然に楽しく交流できる社会。この大きな波をつくる第一歩は小さな波を起こすところから始まるのです。