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はる♪の暮らし上達術:第19回 視覚障害者の妊娠・出産とデイジーの活用

はる♪の暮らし上達術

初めての妊娠・出産は、我が子との対面が待ち遠しい反面、不安もいっぱいです。まして、視覚障害者にとっては障害故の悩みもあると思います。

目の病気が遺伝してしまわないか?
ちゃんとお世話できるだろうか?
困った時はどこに相談すればいいのか?
など…挙げたらキリがないですね。

しかし、妊娠から出産までは長いようで短いもの。やらなきゃいけない事がたくさんあります。お母さんとしての初仕事は、母子健康手帳をもらいに行く事です。病院で診察を受けて妊娠が確定したら、まずは妊娠届出書を提出して母子健康手帳を交付してもらいましょう。お子さんとお母さんの記録を残すための大切な手帳です。自治体によって窓口や必要な手続きが異なる場合があります。

また、お母さんの体調が優れない場合や病気や障害により外出が困難な場合、代筆が必要な場合には、パートナーやご家族など代理人が手続きを行う際に必要なものなどについても、あらかじめ調べておく事も大切ですね。

そして、視覚障害がある妊産婦さんは点字版の母子健康手帳をもらう事もできます。全国どの地域でももらえる事になっているそうなのですが、役所の担当者が点字版の母子健康手帳について知らない場合も多々ありますので、ご自身で点字版の母子健康手帳について説明できるようにしておいた方が良いと思います。

母子健康手帳には、お子さんやお母さんの健康状態を記録するだけでなく、子育てに役立つ情報がたくさん記載されています。検診結果や予防接種などの記録は母子健康手帳に記入されますが、もし点字を読めるのであれば記念にもらっておくのも良いかもしれません。

また、点字版以外にも、デイジー版の母子健康手帳もあります。これは、厚生労働省の委託事業で日本点字図書館において作成されたものです。視覚障害者にとってはお馴染みのデイジーではありますが、まだ利用した事がないという方もいらっしゃると思いますので、デイジーについて簡単にご紹介いたします。

デイジー(DAISY)とは、「Digital Accessible Information SYstem」(アクセシブルな情報システム)の略で、元々は視覚障害者のために録音テープの代わりになるものとして開発されたデジタル録音図書です。デイジーは、国際共同開発機構デイジーコンソーシアムによって開発・維持され、世界50カ国以上で採用されている標準規格です。

デイジー図書には、音声のみの「音声デイジー」だけでなく、音声と共に文字や画像が表示される「マルチメディアデイジー」もあります。マルチメディアデイジーは、自分が読みやすいように、文字の大きさや背景の色、読み上げ速度を変更したり、読み上げている部分が一目で分かるようにハイライト機能なども備わっているため、視覚障害者だけでなく発達障害や学習障害などによって、活字文書を読む事が困難な方々にも利用されています。

iPadや iPhoneなどでデイジーを利用するためには、デイジー再生アプリをインストールする必要があります。デイジー再生アプリの「ボイスオブデイジー5」は有料アプリですがVoiceOverにも対応しているので視覚障害者でも簡単に操作できます。

ボイスオブデイジー5 アプリトップ画面

デイジー版の母子健康手帳は、ボイスオブデイジー5のオンラインサービス「DAISYファクトリーからどなたでも無料でダウンロードして読む事ができます。

デイジー版 母子健康手帳のメニュー画面

おわりに

今回は、点字版とデイジー版の母子健康手帳についてご紹介いたしました。ほんの少しでもこれからお子さんを迎えるお母さんやお父さんの参考になれば幸いです。

視覚障害者もスマートフォンやタブレットなどのOCR機能を使用して活字文書を読む事ができるようになりましたが、その文字認識機能の精度もまだまだ完璧とは言えません。そのため、デイジーのように視覚障害者のために開発されたものはやはり使い勝手が良く、とてもありがたいとあらためて実感しました。

そして、視覚障害者の出産・育児は見えにくさ故にスムーズに行かない事ばかりで不安になったり、自分の不甲斐なさにイライラしてしまったり、他人から心ない言葉を浴びせられて挫けそうになったりなど、とにかく想像以上に大変ですが、それ以上に嬉しい事や楽しい事も多いと思います。初めての事ばかりで戸惑う事もありますが、最初から上手くできる人なんていないですし、全てを完璧にこなそうとする必要もありません。

お子さんと触れ合い、笑ったり泣いたりしながら、親として人として成長していくものだと思います。サポートしてくださる団体や頼もしい先輩方もたくさんいらっしゃいますので、1人で抱え込まず、時には周りに助けを求める事も大切ではないでしょうか?

みんなで支え合いながら、障害があっても楽しく前向きに育児をしていける社会にしていけたら良いですね。

それでは、今回はこの辺で。最後までご覧いただきまして、ありがとうございます。

ライター:はる♪