取材記事

障害者の基準って何だろう? 制度の谷間で苦しむ眼球使用困難症候群

眼球使用困難症・マスコットキャラクターイラスト(視力があっても目が使えない!)

身体障害者であることを証明する手段のひとつに障害者手帳があります。身体障害者福祉法で定められた基準をもとに、各都道府県知事等によって交付されるものです。

では障害認定基準に該当しない人はみんな健常者なのでしょうか。もちろん完全無欠の人間など存在しないわけで。ほかの人よりも極端に朝起きるのが苦手。ほかの人よりも異常に汗っかき。さまざまありますが、明らかに通常の生活を送れない場合でも身体障害者と認められていない人たちがいます。

視覚で言えば、数値上の視力と視野に問題はないのに目を使えないケース。眼球使用困難症と呼ばれる人たちです。まだまだ認知されていないこの症候群を少しでも知っていただけたらと思います。

目の機能を使えないのに障害者じゃない?

お話を伺ったのは「みんなで勝ち取る眼球困難フロンティアの会」代表の立川くるみさん。発症したのは今から10年以上前のこと。それまでも眼精疲労の症状はありましたが、仕事の忙しさやパソコン・スマホの使用機会の増加などにより、突然強烈な目の痛みに襲われました。

なお発症した病気の名称が眼球使用困難症というわけではありません。これは症候群で、原因となる病気は別にあるそうです。立川さんは眼瞼痙攣と強度眼精疲労から。ほかにはレーシック手術の結果そうなる人。円錐角膜によって引き起こされる人など。症状もまたいろいろです。勝手に瞼が閉じてしまったり激しい痛みがあったり、眩しさで目を開けていられなかったり。

立川さんは特に動く光がダメなんだそうです。動く光と聞いて何をイメージされますか? 走っている車のライト。もちろんそうですね。ただそういうものだけではありません。太陽の光も自分が歩くと目には動いているように映ります。室内の照明も本を読もうと視線を動かすとそれは動いている光になります。かなりのシチュエーションで立川さんは目を開けていられないのです。

いま立川さんは目の機能をほとんど使えていません。日常生活では電気溶接サングラスをかけ白杖を使いパソコンやスマホを音声で操作しています。それでも障害者とは認められていないのです。

画面読み上げ機能でスマホに文字打ちする立川くるみ

誰よりも知って欲しい人たちがいる

会の主な活動は会員へのメールマガジン配信と周知活動。メルマガでは活動報告やお役立ち情報を配信。周知活動はさまざまな方法で展開しています。会員のかたに各自SNSなどで情報発信してもらうよう呼びかけるのもそのひとつ。とにかく今はひとりでも多くの人に知ってもらうことが大切です。

中でも特に力を入れているのが眼科のドクターと視覚障害当事者団体、ならびにその支援組織の人たちへの周知。「その人たちは知ってるでしょう?」と疑問に思われるかもしれません。ですがまだまだ浸透していないのが実情です。

たとえば眼瞼痙攣からくる眼球使用困難症。これは脳の病気であることが多く、眼科医でも診断が難しいようです。一般的な検査では異常を発見できないため、患者が症状を訴えても気持ちの問題として片付けられたり、心療内科や精神科を勧められたという人も珍しくありません。

「みんなで勝ち取る眼球困難フロンティアの会」では、眼科医の学会が開かれる会場でポスターやチラシを置かせてもらったり、当事者や福祉関係の支援者の人が集まる場所で発言の機会を与えてもらっています。

1通の手紙が希望を繋いでくれた

周知活動の先に見据えるのは障害者手帳の給付。すなわち障害認定基準に眼球使用困難症の症状が組み込まれること。障害年金もしかりです。

具体的な障害認定への一歩は2017年。眼球使用困難症の第一人者である若倉雅登ドクターが、20年ぶりに「視覚障害の認定基準に関する検討会」が開かれると情報入手されたのです。突然の話でしたが、要望書の作成、国会議員への面会申し入れ(実際に実現)などやれることやりました。

ただ検討会の俎上に載せてくれるかはわかりません。立川さんは最後にもうひとつ行動を起こしました。検討会のメンバーである日本視覚障害者団体連合(当時の略称、日盲連)の竹下義樹会長に手紙を送ったのです。当初は視力・視野に関する基準の見直しが今検討会の議題だと聞かされていた立川さん。それでも一縷の望みを抱いて傍聴に行きました。すると竹下会長がその手紙のことを取り上げてくれたのです。(詳しくは厚労省のサイトにある検討会の議事録を参照)。

検討会では竹下会長の提言と、片目失明者友の会の代表による陳情のおかげもあり、これまでの視力・視野基準から漏れた視覚に困難を抱える人たちにスポットが当たりました。そして2018年、羞明などにより視機能に支障をきたす症状について、国が実態把握をおこなうことになりました。予算が割り当てられ調査・研究班が立ち上げられたのです。

フロンティア精神で挑戦し続ける!

自分たちの権利獲得のために開拓者となって道を切り拓こうとしている立川さん。まさに「みんなで勝ち取る眼球困難フロンティアの会」の名前そのものです。活動も少しづつ実を結びはじめ、公益財団法人日本盲導犬協会では障害者手帳のない眼球使用困難症患者にも門戸を開いてくれました。また読書バリアフリー法の制定に関わったかたの中にも、視力・視野以外の読書困難者について考慮してくれた背景があるようです。

とは言えもっと周知していろんな方向から多くの声が上がらなければ障害認定には至らない。立川さんはそう考えています。

そこで新たに取り組んでいるのが電子書籍の出版。ご自身の年金裁判のことや、これまでの活動をまとめたものを執筆中です。そしてもうひとつ。立川さん自身がイラストを描いた缶バッジキーホルダーを製作しています。眼球使用困難症を周知するためのもので、視覚障害者対象のイベントや展示会で販売する予定です。

眼球使用困難症の周知活動用・缶バッジ

立川さんと一緒に闘いたいというかた、似たような症状で悩んでいるかた、何か応援できないかと思われたかた。ぜひ下記のサイトでより詳しい情報をご確認ください。