連載

なみの全盲ありのままライフ:恐怖のドロップオフ

見えなくて特に大変なことといえば、やっぱり「移動」だと思います。私も一人で外出することが時々あるのですが、何かと困るんですよね。危ない目に合うことだって少なくありません。

そこで今回は、私が白杖を使って一人で歩いているときに体験した戦慄の出来事をお話しします。

何より恐れていた「ドロップオフ」

それは、盲学校で歩行訓練を受けていたときのこと。私は当時高校3年生。「ドロップオフ」という嫌な課題と向き合っていました。

この歩行訓練、実は大嫌いだった授業の一つです。先生がとにかく厳しかったから。命に関わることだからと、それはもうスパルタ的な指導をしてくださって。一人で外出できるようになりたいという思いでどうにか乗り切ってきましたが、私は訓練中常にビクビクしていました。

その歩行訓練の中で何より恐れていたのが、ドロップオフ。
スクールバスに乗り、知らない場所で降ろされ、そこから自力で目的地まで歩いて行く、という訓練です。もちろん先生は近くで見ていますが、基本的に助けてはくれません。困ったときは誰かに声をかけるしかないという状況。

私はその頃一人で電車通学していましたが、周囲の人に助けを求めるといった経験はなく、ドロップオフなんて絶対絶対やりたくなかったんです。

それなのに…

私にとって最初で最後のドロップオフは、ついに始まってしまったのでした。

運命のとき

スクールバスから降りたときは、持ち前のなんとかなる精神が発動したのか、思いのほか冷静でした。目的地は駅。どうすればそこにたどり着けるのか、そんなことはわかりません。
それでも歩き始めました。適当に。そうすることで何か手がかりが見つけられるかも、と思ったんです。

少し歩くと、点字ブロックを発見。危ない場所ではなさそうな感じ。何となくだけど、駅は意外とすぐそこなんじゃないか。簡単にたどり着けるんじゃないか。そんな気がしました。
このときの私は、ちょっと楽しい気分で、鼻歌でも歌いたいくらいの勢いだったんです。その後やらかしてしまうことなど想像もしないで。

しばらく歩いてみたところで、周りが静かになってきていることに気が付きました。駅の雰囲気ではありません。そこで私は引き返すことにしました。このあたりから、だんだんと心配になってきます。

このままではいけない。やっぱり、誰かに聞いて自分が今どこにいるのか確かめなければいけない。だけど声をかける勇気がない。ただただ歩き続けることしかできない私。不安と焦りばかりがどんどん膨らんできます。どうしよう、どうしよう…。

そんなふうに、あれこれ考えていたときでした。私は異変に気づいたんです。足元の感触がおかしい。何だこれは、と思ったその瞬間。「危ない!」。見知らぬ誰かに引き留められたんです。その声の調子に驚き、パニックになった私でしたが、次の言葉を聞いて凍り付きました。「今線路の上を歩いてたよ!後ろに電車止まってたよ!」。

その後、ヘルパーさんだというその方は、私を駅まで案内してくださいました。大切な時間やエネルギーを割いて。なんて親切な方だったのでしょう。この方のおかげで、私のドロップオフは無事終了しました。本当に感謝してもしきれません。

一人で外出していて思うこと

ドロップオフという訓練を知ったときは、なんてひどいことをするんだろうと思ったものです。でも一人で外出して行動範囲を広げていけば、ドロップオフのような状況なんて日常茶飯事。この訓練がいかに大事なものであったか。今はそれを痛いほど感じています。

どんなに危険がいっぱいでも、何度ピンチを経験しても、単独外出をやめることはできません。一人で安心して出かけられる場所がもっともっと増えることを、私はいつも願っています。

一人で出かけると苦労はするけれど、つらいことばかりではありません。ドロップオフのときもそうでしたが、見知らぬ方々のたくさんの優しさがとても温かい!フレンドリーに話しかけてくださる方。思い切ってサポートを申し出てくださる方。みんなに感謝感謝の日々です。私の心はポカポカです。

「見えなくてよかった」などと思えることがもしあるとするなら…
私にとってそれは、そんな温かさをいっぱい感じられることなのかもしれません。

ライター:なみ