取材記事

笑いのある福祉で視覚障害を楽しく周知するboyo-art

視覚障害に対する誤った認識をなくしたい。そう考える当事者は多いでしょう。ただ晴眼者の人もそれぞれの生活で手一杯のはず。ましてやコンテンツが溢れているこの時代、悲しいかな興味のない情報には誰も関心を示してくれません。

そんな現状に自分の強みで挑戦するboyo-artをご存知でしょうか。可愛いキャラクターで社会に周知して回るロービジョンクリエイターです。

boyo-artのメインキャラクター、よっかちゃん

boyo-artの「ぼよ」は、ぼよよんというオレンジ色のおばけ。作者の山川恵子さんが中学1年のときに生み出した自分自身を表すキャラクターです。学生時代、友だちと交換するサイン帳やいろんなものに、このぼよよんを描いていました。
キャラクター・ぼよよんぼよよん山川さんの描く絵の総称がboyo-artです。山川さんは、現在右目がほとんど見えない状態で左目の視野が3%ほど。残っている左目のわずかな視野と視力で絵を描き続けています。

boyo-artは、山川さんが視覚障害に関する周知活動をするときのチーム名でもあります。同じく視覚障害で全盲に近い山川さんの旦那さんと、晴眼者で強力なパートナーの通称ピンクさん。3人で活動するときにboyo-artを名乗っています。

boyo-artのメインキャラクターは目が見えにくいパンダのよっかちゃん。このよっかちゃんが良い働きをするんです。どのような周知活動をしているのか、その実態に迫ってみました。

紙芝居で周知活動。開始当初は悪戦苦闘の連続

boyo-artの武器は紙芝居。そこによっかちゃんが登場して、視覚障害のあれやこれやを伝えていきます。
ロービジョンパンダ・よっかちゃんの周知マーク

もともと漫画家志望だった山川さんは、高校卒業後、営業事務などを経て広告会社でイラストを描く仕事に就きました。徐々に目の病気が進行し広告会社を退職しましたが、その後も就労支援A型事業所でイラストに関わる仕事を続けています。たまたま事業所に貼っていた山川さんのキャラクターが縁で、地元淀川区の社会福祉協議会・身体障害者部会の部会長さんと繋がり、絵の才能を活かせる周知活動の道に足を踏み入れました。

また盲導犬ユーザーとなってからは、盲導犬訓練所の依頼で紙芝居講演をすることもあります。

最初に始めたのはおよそ3年前。人前で話したことなどほとんどありません。台本を作成しカラオケボックスで何時間も練習して、一字一句間違えないよう紙芝居を読んでいました。しかし忠実に読もうとすればするほど棒読みになります。視野が狭いため、行を間違えたり、文字を読み飛ばしてしまうこともしばしば。もちろん聴衆の反応が良いはずがありません。

あるとき部会長さんから、すべてアドリブでいこう!と提案されました。

小学生との真剣勝負で腕を磨く

元来がお喋り好きな山川さん。ふだんの会話では楽しいトークが炸裂します。アドリブなんて無理、と思っていたのも束の間。すっかりアドリブ紙芝居が板についてきました。

今活躍の場は主に小学校。小学3年生と5年生の国語の教科書に、盲導犬の話が載っているため福祉授業の一環で声がかかります。

小学生相手とは言え下手なことはできません。つまらない説教じみた話では途端に退屈そうにされてしまいます。つかみは元気よく「みぃんな大好き、よっかちゃんだよ~!」と叫びます。しかしそこは大阪の小学生。すかさず「そんなん、知ら~ん!」と返ってきます。

子どもの反応はストレート。だからこそ子どもが好きな言葉や表現を工夫します。たとえば、視野が狭いよっかちゃんの見え方は、ちくわの穴で説明。補助具や支援機器などは秘密道具と呼び変えて興味を惹きます。
ロービジョンパンダ・よっかちゃんのちくわ的見え方

信号待ちの視覚障害者に青になったことを教えてあげて欲しい、と説明する場面では。「知らん人によう話しかけん」と言った子どもに、独り言でいいから「あ、青になった!」と大きな声で言ってねと伝えます。この行為を、独り言大作戦と名付けると、子どもたちは感想文に「独り言大作戦を実行します」と書いてくれました。

やりたいことが多いから見えてるうちは描きまくる!

boyo-artは常に進化しています。自分で紙芝居の絵を描いているので、改善したいと思ったらすぐに修正。そうやってクオリティを高めてきました。これからもそれは変わりません。

ほかにもboyo-artのやっていること、やりたいことはたくさんあります。
・幅広い層への周知活動
山川さんが盲導犬と歩いていると子どもよりも大人が誤った接し方をしてきます。もっと知ってもらうために小学校以外のいろんな場所へ出かけていきたいと考えています。
ロービジョンパンダ・よっかちゃんと盲導犬

・ミエニクインジャー
2020年は、ロービジョン戦隊・ミエニクインジャーをもっと成長させるつもりです。弱いし必殺技もないし見えにくい。でも点字ブロックの上の迷惑駐輪を指導するなど地味ながら頑張る戦隊ヒーローです。

あとは、ラインスタンプを増やしたいし、漫画も描きたい。グッズ販売も伸ばしたいし、手作りのよっかちゃんサンキューカードも広めたい。もちろんイラストレーターとしての仕事もお引き受けいたします。

見えなくなってきて落ち込んだこともありました。今でもいつか完全に見えなくなるのではと突然不安に襲われることがあります。それでも立ち直るのも早い山川さん。ウジウジ悩んでる時間がもったいない。いつまで描けるかわからないから今のうちに描きまくる、と前向きです。

boyo-artのモットーは「自分たちが楽しんでこそみんなが楽しい」です。障害への偏見や誤解を解消するために必要なのは、上から目線の「理解してもらって当然」でも、卑屈な態度の「申し訳ありません」でもなく、楽しく知ってね、が一番なんですね。

◆周知活動だけじゃない。boyo-artの活動をもっと知りたい方はぜひHPをご覧ください。