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山田菜深子、初エッセイ集「全力でゆるく生きる ~全盲女子のまったりDays~」

視覚障害関連webメディアのミルクフ編集局です。

この度、当メディアで連載中の「なみの全盲ありのままライフ」をAmazonから電子書籍(kindle版)で発売することになりました。タイトルは「全力でゆるく生きる ~全盲女子のまったりDays~」。著者・山田菜深子の頑張らない日常を集めたエッセイ集です。当サイト公開済みの中から著者本人が選んだお気に入りと、未公開書き下ろし作品を詰め込んだ山田菜深子ワールド全開の1冊となっています。ぜひお買い求めください。

頑張らない自分を認めよう

この本は、全盲である著者がどのような生活を送っているのか、日々のありふれたシーンからつまびらかにしています。ただどこを切り取っても頑張ったエピソードは出てきません。

ふつうは生まれつき全盲の人が本を出すとなれば、大変な努力をして晴眼者ですら成し遂げるのが困難なことをやってのけた、とか、ハンディキャップをものともせず何にでも挑戦しているとか。そういった、多くの人の心を打つ内容が書かれているものと思うでしょう。

ところが山田菜深子は全盲で超小心者でダメダメ感満載。しかも、それを克服しようとはせず、こんな私の生き方どうですか、と開き直っているかのようです。編集に携わった身としては、頑張らない生き方を称賛するってどうなんだろう、と思はないでもないですが。なんとなく羨ましさはあります。

というのも今の時代、疲れている人、余裕のない人、自分を追い詰めてる人が増えてると思いませんか? パナソニックが行っている家事に関するライフスタイル調査でもそれは如実に表れています。たとえば普段の生活の中で余裕・ゆとりがあるかを問う設問では、11項目すべてにおいて2017年より2019年の方が悪化していました。最も顕著なのは「趣味やレジャーを楽しむ時間的余裕・ゆとり」で、38.6%から31.0%と7.6ポイントの下落。反対に家事の分担でパートナーとけんかになったことがあるか、との設問では66.2%から73.8%と7.6ポイントアップしているのです。

また、厚生労働省が公表している令和元年度の「過労死等の労災補償状況」によると、「脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況」の請求件数は2015年が795件だったのに対し、2019年は936件でした。さらに「精神障害に関する事案の労災補償状況」にいたっては1515件から2060件に増えています。

同じく厚生労働省の「患者調査」では精神疾患による外来患者数の増加も目立ちます。2014年と2017年に行われたのですが、2017年は389万1,000人と2014年よりも28万人も多い結果となっています。

本の出版とはかけ離れた話になってしまいました。ただこの事実を知ると、頑張らない生き方も大切なんじゃないか、と思えるのです。本書に収められた作品の中に「嫌なことからはとことん逃げる」という話があるのですが、これを読むと「いや、お前もうちょっと頑張れよ」と言いたくなるでしょう。私でさえそうでした。しかしその考えが危険信号かもしれません。

頑張る・頑張らないはその人自身が決めること。そして頑張らない自分に罪悪感を感じないこと。頑張らない自分を認めていい。そんな空気感を感じていただけたら著者もきっと喜びます。

彼女をひと言で表すなら超小心者

あるお笑い芸人の方の漫才で次のようなネタを聞いたことがあります。背が低く太っている彼は「俺をチビと呼ぶ人はいない。みんなデブと呼ぶ。なぜならデブはほかの特徴をぜんぶ消してしまうインパクトがある」のだと。(詳細はあやふやですが、ニュアンスとしてそのようなことを言ってました)。

もし誰かに著者・山田菜深子について聞かれたら、私は間違いなく「超小心者」と答えるでしょう。彼女がどういう人なのかを言い表すとき、全盲という属性よりも「超小心者」の方が特徴として強烈だからです。これは決して悪口ではありません。誰よりも本人が一番それを認めています。

たとえば会話をしていても、こちらから話題を振らないと自ら喋ってくれることはほぼありません。それどころか話を振っても黙ったまま何分間も無言というのも珍しくないことです。ただ嫌な感じは一切なく、沈黙が続くから話題を探さないと、などとこちらに気を遣わせるような雰囲気を醸し出さないのがすごいところです。

私のこれまでの人生において、学校・会社・地域社会・その他さまざまな場面で出会ったたくさんの人たち。その中でも、人見知り・内気・引っ込み思案のレベルは彼女の右に出る人はいませんでした。まぁどんなことでもトップになるのは大したものです。それにここまで小心者を拗らせてる人ってちょっと興味が湧いてきませんか?

やや強引ですが、山田菜深子の小心者エピソードを知るには本書が一番です。本人曰く恥を忍んでさらけ出しています。初対面の人が彼女から言葉を引き出すのは困難ですが、エッセイを読んでいただければ彼女の人となりがもっとわかるでしょう。「書く」ことにおいては饒舌なので。

視覚障害者に興味関心のない晴眼者の方でも、こんな山田菜深子のダメな部分に親近感を抱いてくれる人はいるでしょう。そこから「全盲の人ってこんなふうに生活してるんだ」とか「視覚障害者ってこういうことが不便なのか」と気付いてもらえるかもしれません。頑張らない超小心者の性格が良い効果をもたらすこともあるのです。

9月25日Amazonで発売

もし頑張りすぎて心とからだが疲れてるな、と思ったら。
もし山田菜深子の人間性に関心を持っていただけたなら。

「全力でゆるく生きる ~全盲女子のまったりDays~」をお読みいただけると幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

ご購入は以下のページから。

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