取材記事

ロービジョン旅ガールが不安を抱えつつも行動する理由

大阪市内で「もいもい」という鍼灸あんまマッサージ店を営んでいる友光好子さん。彼女のブログには旅の楽しい記録が満載です。

アクティブな彼女は、ご家族と、晴眼の友だちと、同じロービジョンの友だちと、そして一人きりで。とにかく行きたい!と思ったらどこにでも行ってしまいます。夜盲と視野狭窄で現在視覚障害2級の手帳所持者ですが、友光さんの行動を見ていると見えにくいことの不安など微塵も感じられません。
なのでかなりの強心臓で何事にも動じない性格だと勝手に思い込んでいました。ところがご本人によると、実は不安だらけだと言います。
そんな友光さんに不安を抱えていても一人で海外を旅する秘訣についてお話をうかがいました。

moimoi ~よぴこのてくてく歩きの旅~

きっかけは子どもの頃にテレビで見たバード島

- 友光さんが海外に興味を持ったのはいつ頃だったんですか? -

最初に海外に憧れを抱いたのは子どもの頃に見た「兼高かおる世界の旅」でした。その番組でセーシェル諸島のバード島の映像を見たときに、絶対ここに行きたい!って思ったのを覚えています。当時はまだ夜盲が少しあったぐらいで、自分でも視覚障害っていう自覚もありませんでした。

ー そんなに年齢変わらないけどその番組知らないです(笑) -

うそ!、そんなはずないでしょう。

まぁ、いずれにしてもそれから大人になってもずっとその思いがあって、旦那にも新婚旅行はバード島に連れてってと言ってました。

ー じゃあ新婚旅行で夢が叶ったんですか? そこから海外旅行人生が始まった? -

正確には初めての海外旅行は友だちとのサイパン旅行だったんですが、2回目が旦那との新婚旅行で、無事バード島に行けました。
思ってたとおりバード島がすごく良くて、そのあとも友だちや旦那とグアムやハワイに行ってましたね。でもそこからは両親の健康面やいろいろあって、海外旅行とは縁のない生活を送っていました。

オーロラが見たい!目が悪くてもやれることはある!

- 最初に何度か海外に行ってから年数が経って、またその思いが強くなったのはどうしてですか? -

ロービジョンの人たちとの食事会である女性がカナダにオーロラを見に行く話をしてたんです。会話の内容を勝手に解釈して自分も連れて行ってもらえるのかなと思ってたら。次にその女性と会ったときにカナダ行ってきた、ってお土産もらったんです。その人は最初から一人で行くつもりで話してたのをわたしが自分も一緒に行けると思ってただけだった(笑)…

でもそのカナダ帰りの女性の話を聞いてますます「わたしもオーロラ見たい!」って思うようになったんです。

ー その頃の目の状態はどれぐらい? オーロラなんて見えるんですか? -

当時も今ほどではないけど夜盲と視野狭窄はありました。状態としては、白杖は所有だけしていて大抵は鞄に入れたまま、という感じかな。
でもカナダに行った女性からもロービジョンでも見えると聞いてたので絶対行こう!と。ただカナダはオーロラの見える場所がホテルからかなり離れていて不安だったので、ホテルを出てすぐ見ることができるフィンランドにしました。

ー 行ってみてどうでしたか? -

晴眼の友だちと一緒に行ったのですが残念ながらその年は気候の問題で見えませんでした。で、翌年もう一度別の友だちと同じ場所に行きました。その時も天候はそんなによくなかったのですが何とか見ることができて。それでオーロラにはまって、結局その次の年とさらにその翌年、カナダにも行ったんです。

ー すごいペースでオーロラ見ましたね(笑) そこまではずっと誰かと一緒ですよね? -

必ず晴眼の友だちが一緒でした。でも2回目にカナダに行ったとき、出発前のいろいろな手配をぜんぶわたしが一人でやったんです。
で、日本でやっておくべき準備に関しては慣れてきたかな、という実感がありました。

ロービジョンの一人海外旅行で大事なのは己を知ること

- では初の一人海外旅行のことについて聞きたいのですが -

初めての一人海外は、それまでにも何度か行っていたフィンランドです。この時、関空でカメラと携帯とiPadをトイレに置き忘れたまま出発してしまい、事前に調べてたことも全部わからない状態になってしまったんです。

ー それは大変! でも友光さんならケロッとして切り替えてそうですね -

もうぜんぜん!往きの飛行機の中ではずっと泣いてました。不安で不安で着いたらすぐ帰ろうかと思ったぐらい。でもふて寝して起きたら、開き直れた(笑)
逆にそれを経験したから強くなれたのかもしれないですし、なにより行ってみたらめちゃくちゃ楽しかったです。

ー 最後には楽しんでしまう友光さんですが、実は不安も大きいんですね -

毎回すごく不安ですよ。わたし海外じゃなくても、なんなら今日ここ(待ち合わせ場所の神戸・三宮)に来るのも不安だったぐらい。

 

ー えー、知らなかった。 では今の見え方と、見えにくい不安を克服してチャレンジする秘訣を教えてもらってもいいですか? -

今は夜盲と視野狭窄で、中心視力は残っているけど中心も部分的に見えてないところがあったりします。
でも自分の足で歩くのを意識して、とにかく白杖を使って一人で歩く練習をしています。心がけてることとしては、近くでもいいから出かける。何か目的を作ってその場所まで行く。それから立ち止まって看板の文字を読む。そういったことを継続してやってます。

ー 地道に安全に歩く練習を続けてるんですね。ほかにはどうですか? -

己を知る、すなわち自分のレベルを知ることですね。どこまでなら一人で安全にやれるのか、どこからはほかの人に助けてもらわないといけないのか。それをしっかり自分で把握しておく必要があると思います。特に海外ではそのことを踏まえて、暗くなる前に早くホテルに戻るとか、ちょっとでも危ないと思ったらその場所には行かないと決断するとか。やめる勇気を持つことも大事です。

準備と経験と気持ちがチャレンジさせてくれる

- しっかりと安全確保に努められてるんですね。とは言え見えにくい人にとって何かにチャレンジするのは勇気がいります。そのチャレンジ精神はどこからくるのでしょう? -

海外旅行のことで言えば何よりも周到な準備です。わたしはだいたい1年に1回のペースで海外に行っているのですが、計画から下調べ、準備に至るまでをかなり時間をかけてやってます。そして現地ツアーの会社にも細かく自分の見え方を説明して、理解して受け入れてくれるところを探します。

- それだけ万全に準備をしているからチャレンジする一歩が踏み出せるんですね -

あとは経験ですかね。さっきも言いましたが、わたしは旦那や友だちと何度も海外に行って経験を積みました。その過程で少しづつ各種手配の方法も覚えていきました。また初めての一人海外の場所は行き慣れたフィンランドを選びました。そのときに携帯とかいろんなものを無くして出発するはめになったのも経験になりましたね。

- 確かに段階を踏んで経験していけばチャレンジするハードルは下がる気がします -

それで最後は、やりたい!という気持ち。わたしはあれやりたい、と思うとその気持ちが不安を上回ります(笑)

 

迷惑はかけないように、でもやりたいことを諦めない

- 不安を無くしてチャレンジする方法がよくわかりました -

でも不安です(笑)
去年のマルタ一人旅とか今年のウズベキスタン一人旅の前なんて不安すぎて吐きそうでした。

- そこまで?(笑) -

ただそういうタイミングでいつも友だちから連絡が来て、根拠のない「大丈夫、大丈夫」っていう励ましをもらいます。それで少し安心して、あとは当日ラピート(関空に向かう南海電鉄の特急)に乗るとスイッチが入ります。で、最後は機内で日本語のアナウンスがまったく無くなったタイミングで腹を括るというかようやくワクワク感に変わりますね(笑)

- そんな不安感と行動力を併せ持つ友光さんから最後にもう一言お願いできますか? -

海外に行くようになってから少しづつ英語を習ってるんです。今から目を良くすることはできないけど、旅行先でのトラブルを避けるために自分にできることはいろいろあるんじゃないかと思って。

わたし、何かやるときになるべく人に迷惑をかけない、というのが根底にあるんです。でも矛盾するようですが、どうしてもこれやりたい、と思うことがあれば仮に迷惑がかかってもやりたいことを優先したいとも思っています。だからこそ迷惑を最小限に抑えるために自分にできる準備を怠らないようにしたいな、と考えてます。

終始穏やかな口調で語ってくれた友光好子さん。発言の中にも彼女の真っすぐで素直な性格が表れていて楽しいインタビューとなりました。これからも安全で楽しい海外旅行生活を満喫してください。